神埼市千代田町城田上直島 八色ハルエさん(明40生)

  お爺さんが、山で畑仕事して弁当食べていたら、

「俺もいっちょう【ひとつ】、くーれんかん」と

狸が言うので、食わせてやったら、今度は、

「ひーだりぎーにやぁ、ぎっかんしょ、ぎんかんしょ」

と悪口を言うそうです。

それで、怒って追いかけると逃げるので、

狸が座る石の上にトイモチを付けて、

今度、腰かけるなら捕まえてやると思って、

また、山仕事をしていました。

やっぱり、狸が出てきて、石に腰かけて、

また、そのように言うのです。

それで、追いかけようとしたら、

狸は石から立とうとしたのに立たれずに捕まってしまいました。

そうして、狸を縛って、家に連れて帰って、お婆さんに、

「狸ば獲ってきたけん、今夜は、狸の汁ばしてござい」と言われて、

また、山の畑仕事に行かれたそうです。

狸は、厠【便所】の所に吊り下げていたそうですが、

お婆さんが近くで米を搗いているので、お婆さんに、

「お婆さん、縄ばほどいてくるっぎんと【縄を解いてくれると】、

米ばなでてやっけんが【米を搗いてやるから】、ほどいてくんさい」

と言うそうです。

そうしたら、お婆さんは本当にそうしてくれると思い、

縄を解いてやると、狸は米を搗いてやるふりをしながら、

お婆さんを杵でコッツンと叩いて殺してしまったそうです。

そうして、お婆さんの着物を全部はぎ取って、

自分が着てお婆さんに化けて、狸汁じゃなく、

お婆さんの汁を煮ていたそうです。

そうして、お婆さんの頭は、縁の下に隠しとったそうです。

そうしたら、お爺さんが、夕方、帰ってきて、

「狸の汁はできたか」と言うので、お婆さんの汁を出したら、

「うまか、うまか」と言って食べられたそうです。

そうして、お爺さんが食べてしまったら、狸が、

「あの爺が、婆の汁吸うた。婆の骨は縁の下」

と言って、逃げていったそうです。

それで、お爺さんが、縁の下を見たら、

お婆さんの骨のあったので、悲しくて、泣いていたそうです。

そうしたら、兎が来て、

「お爺さん、なし【なぜ】泣きよんねっ」と聞いたら、

「狸が、婆さんばうちこりぇて【殺して】、

婆の汁ばおい【俺】に吸わせた」と言うので、

「そいない【それなら】、仇討ちばしてやっ」と言ったそうです。

そうして、兎は、狸の所に行って、

「今日は、焚き木とりぃ行こう」と言ったら、

狸が一緒についてきたそうです。

それで、狸と一緒に焚き物拾いして、

拾った焚き物は狸にいっぱい背負わせて帰っていたそうです。

そうしたら、後ろからついてきた兎が狸の背中の焚き物に、

カチッカチッと火を付けたそうです。

それで、狸が

「カチカチ言いよっとはない【何】かい」と聞いたら、兎が

「あや【あれは】、カチカチ山」と答えました。

そうしたら、今度は、ボウボウて燃えるでしょう、それで、

「ボウボウ言いよっとは、ない【何】かい」と聞いたら、

「あや【あれは】、ボウボウ山」と答えていたら、

背中がボウボウ燃えて、狸は火傷したそうです。

そうしたら、今度は、胡椒やら何やら持って来て、

「火傷の薬けん、こいで治っ」と言って、

火傷した所に塗ったら、もうヒリヒリヒリして狸が痛がったそうです。

そうして、今度は、

「船に乗ろう」と言って、泥舟作らせて、

自分は木舟で、海の真ん中に行ったそうです。

そうしたら、狸の船は泥舟だから、

海の真ん中で、沈んでしまったそうです。

そうして、お爺さんの仇討ちして、お爺さんを喜ばせたそうです。

そいばぁっきゃ【それでおしまい

(出典 千代田の民話 P68

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