神埼市神埼町蔵戸 太田芳雄さん(明38生)
餅好きな和尚がおったて。
小僧に食わぜじい〔食わせず〕、和尚ばっかい食いよったて。
ある日、和尚が留守の時に小僧が〔餅〕食ってしもうとった。
そいで小僧は、
「私や食わん」ち。「わが食わじ誰が食うきゃあ〔かあ〕」ち。
「そいばってんが、あんたあ、幾ら食うとらんて、
あんたの食うとっち〔食ってると〕言うたっちゃ〔言っても〕、
俺(お)どま知らん。そいばってんが、寺(うち)の裏の地蔵が食(き)いよったあ。
地蔵がもう、俺がこの頃行たぎにゃもう、
ムシャンムシャンいわして食いよったけんが、地蔵に違いなかよ。
俺どま食うとらんよ、和尚さん」ち。
「そんない地蔵さんの所(とけ)ぇ行たてんのう」ち。
そうしたいば、地蔵さんの口端(べち)やあ何(ない)かの線のこうちいとったち。
「そーうら、わが、俺(おや)、小僧ばかい言いよっとけえ、わが〔じぞうが〕食うとったかあ。
俺、また食おうで楽しゆうどつとこれぇ〔楽しんでいるところに〕。こん畜生(ちくしょう)」
て、和尚さんの地蔵さんば濠(ほい)の中(なき)ゃあ、ザブーッと、ほたくい〔放り〕投げなったて。
「くうた。くうた。くうた」ち言(ゆ)うて。
そいぎい、ばあっきゃあ。
〔大成 五三五 餅は本尊様〕
(出典 吉野ケ里の民話 P179)
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