神埼市神埼町尾崎西分 山口秀次郎さん(17)

 むかしむかし。

やっぱいこの九州の者(もん)じゃろうのう。

そいで、伊勢参宮しゅうでて、やっぱい九州の者の話〔はな〕あとったもんたいなあ。

明日(あしちゃ)あ行くち言うことを。

そうしたところがその、

その蒟蒻(こんにゃく)螺子兵衛門(ねじえもん)一人(ひとい)にゃあ

言うとらんじゃったもようたいのう。そいで、

「あいいっちょ〔あれひとり〕、螺子兵衛門にも言わんち言うわけにもいかんじゃっかあ。

近辺じゃんもんじゃい、言わじゃあごて〔言わなきゃ〕」て言うて。

そいで、その日になってから、

「螺子兵衛門、伊勢参宮しゅうで〔しようと〕思うとっけん、参(みや)あらんかあ」

ち言うて、

「『参あらんかあ』て、今日(きゅう)すっとば今のう、そげん言うても参あらるんもんかあ」

と、こう言うたもようのまい。そいぎい、

「俺(おや)、銭(ぜん)も持たん。銭も持たんたあ」て。

「銭(ぜに)ゃ立て替えてよかけんくさんたあ。銭どん持って参あろうだい」

て、言うて。

そいぎい、ちょっと、ぎゃん〔このように〕決めたわけですたいなあ。

そいでその、友だちと一緒に行たて、まあ、門司から船に乗ったもようたいなあ。

そうしたところが、

「船の中〔なき〕ゃあで、その、酒飲うでもう、

歌うたいないしたいで。〔うたを歌ったりほかのことをした〕そいで、

こいから先(さき)ゃあ兄弟(きょうじゃ)あ以上じゃあ。

こいから先(さき)ゃあ、この船乗って、まあこうして、

ぎゃん(こう)してすっごた、またとあんみゃあけんが、

もう、こいだきゃ〔これだけ〕兄弟あ。

そいけんが、いらんこと言われたっちゃあ、

されたっちゃあ腹かく〔怒る〕ことなんじゃあ」て、こぎゃん言(ゆ)うとったて。

そうしたとっがあ、誰でんその、酒飲うで歌うたい、踊ったいしよった。

ところが、誰でんもう眠(ね)ぇったて。

そうして、眠えってしもうたもんじゃい、

「螺子兵衛門(ねじえもん)も覚べえーつかじ〔目覚めることなく〕眠えつとつたじゃあ。

こりゃあ、どがんしたっじやあ、おずまんじゃあ〔目覚めない〕。

髪(かしら)ば剃ってくいてみゅう」て言(ゆ)うて、

坊主さんになっごと剃ってくいてみたもよう、髪(かしら)ば。

ところがもう、大阪着(とど)くじゃあ。

さあ、上らんばらんじゃあ、ち言うごたふうになってきたもんじゃい、

螺子兵衛門(ねじえもん)も起(お)けえたもようたい。

そうしたところが、ひょっと、目が覚めてみて頭のスカッとしたもんじゃい、

こう、頭ばしたて。そうしたところが、頭ば剃ってしもうとっけん、そいぎにゃあ、

「俺(おい)が頭ば誰(だ)が剃ったきゃあ」ち言うて、

「誰がやったきゃあ」ち言うて。

「そがん言わいなあ〔そんなに〕。ちゃあーんと、船乗っ時から、そがん言うとっじゃっかあ。

『どがんことされても、腹かくことなん〔言っていたじゃないか〕』て、

言うとったやっかあ〔言っていたじゃないか〕。そいけんがもう、腹かくことなん」て。

そいぎい、こん畜生(ちきしょう)、そがん(そんな)ことしやがれ。

ほんに覚えとけ。

頭ばちい剃って、と思うて。

そうしたところが、とうとう今度(こんだ)あ、大阪上らんばもんじゃい、大阪上ったもようたい。

ぎゃんしたけんが〔髪を坊さんのように剃られたから〕、こいから俺が

いっちょ困らせてくりゅう〔やろう。〕と、思うたもようたいなあ。

そいぎその、街(まち)ばずーっと行きよったところが、うぅーん、こりゃあ、

俺もう、坊主さんになって。わがが思うてなあ。

そいで、袈裟屋に寄って、

「袈裟は幾らすっかい」ちて、言(ゆ)うたぎい、

「袈裟はこりゃあ、二千円」ちて、

「いちばんよかとで幾らかい」ち。そうしたぎい、「二千五百円」ち。

そうしたぎい、

「二千五百円とばくんさい〔ください〕」ち、言うてまた、よかとば買(こ)うたもようたい。

そいから、「金は後(あと)の同僚が持って来っけんが、同僚から取ってくんさい」ちて、

言うて、そこば出たもよう。それでずーっとまた、行きよったところが、

後ろの人(しと)たんたちがその、同僚が、

「あんたたち、同僚さん、同僚さん。今その、袈裟ば買うて行きんさったあ。

『お金はその、あんたたちから、同僚さんから取ってくいろ』

ち言(ゆ)うてやったけんが、やってください」ちて。

「ああ、そりゃあ、幾らじゃったやいかん〔だったやろうか〕」ちて。

「よかとば出してくいうてやったけん、二千五百円とば出(じゃ)あたあ」て。

そいぎい、ほんに困ったことばしたにゃあと思うて、

やらやこてにゃあ〔やらなければなあ〕と思うて、二千五百円やったもようたいなあ。

そうしたところが、また先さい行きよったところがまた、今度(こんだ)あ、

螺子兵衛門が、まっいっちょ〔もうひとつ〕衣ば買おうで思うて、

衣屋に寄って、「衣は幾らかい」ちて。

そいぎい、

「衣は五千円から、よかとは七千円もすっ」ちて。

そいぎい、

「そん時やあ、よかとばくんさい」ち言(ゆ)うて。

またその、衣ば買(こ)うたもようたんたい。

そうしたところが、金は同僚から取ってくんさいて言うぎにゃ、

その同僚がまた、金はやったち、言われてなあ。

「『同僚から取ってくいろ』て、言われたけん、

あんたんたち金はくいて(くれて)くんさい」て、言うたもようたい。

そいで、同僚が、

「ありゃあ、またそがん高かとば買うてにゃあ。よかとばっかい買うてにゃあ」て、

言うてなあ。そうしたところが、

「ほんに困ったことしたにゃあ。こりゃあ、髪剃ってくれんがましやった」ち。

こぎゃん〔このように〕言いよったもようたいなあ。

そうしたところが、その晩な向こうは宿屋じゃなし、その、お寺に泊まらんばごと

なっとっお寺さい〔へ〕行たもようたい。そうしたところが、

「ううーん、あなたんたちはその、そけえ、庭中(にわなか)の方から上ってくんさい。

そいばってんが、和尚さんだきゃあ〔螺子右衛門だけは〕この座敷の口から上ってくんさい」

ちて、こぎゃん〔このように〕そのお寺から言いなんもんじゃいのう。

「こりゃあ、俺(お)どんと螺子兵衛門(ねじえもん)なほんに差のあっごた、俺どんと。

差のあっごとなったやっかあ」ち言うて、今度あその、振舞(ふんみゃ)あでん、

何(なん)でんいちばん口やってしなっ〔もてなされる〕。

「さあ、和尚さんなこっ。早(はよ)う風呂(ふれえ)入っておくんさい」

ちて、言われて、風呂入って。

そいからまあ、座敷の方でその、そこの和尚さんと話(はに)ゃあとっとのう。

別の者な長屋に泊まらんばらんて。

ところがもう今度(こんだ)あ、ご膳の出てきて、高かご膳でどうしてのう、

そやもう、螺子兵衛門(ねじえもん)なご膳の違うちゅうもん。

ところが、

「こりゃあ、困ったことした。螺子兵衛門一人(ひとい)、ほんによかったやっかあ」て、

言いよったところが、うーん、大抵酒飲んで、お召ししもうてなあ。

そいから、そこの和尚さんの言いなっことにゃあ、

「言わず問答ばせんばらん」て。そうしたところが、

「今夜と思うとばってんが、今夜はさせんごとすっけんが、明日の朝すっ」ち言(ゆ)うて、

言いなったもんじゃい。

明日の朝すってえなったわけたいなあ。

そうしたところがもう、それでもう、寝っと思うとったないば、

和尚さんだけはもう、座敷、別な者(もん)な家(え)寝せられてなあ。

ところが、明くる朝もう、発つ前にその、

問答ばせんばらんご〔しなければならない〕たあ決めてあったもんじゃい。

そいぎい、その、問答ば、和尚さんがすんじゃったもようもんのう。

こうしなったち言うもん。

そうしたいないば、そいば蒟蒻(こんにゃく)と思うて、こうして見せたもようたいのう。

そいぎにゃあ、あはーと、その和尚さん思うといなったぎにゃあ、こうと思うてのう、

こやあ、和尚さんまた負けなったらしかじゃん。

そいぎにゃ、そいがその、三里どまこう、三本出しんさって。

そうしたぎにゃあ、そいがその、十方世界ち言(ゆ)う。

その、あぎゃんとば。三里じゃなか、十銭ほどじゃと思うたふうでなあ。

こう、出しよったもようたい。そうしたところが、そいがその、

まだ指ば五本出しなったもんじゃい。

そいぎにゃあ、こう耳ん下ば引っ張って見せたもようたい。そいぎにゃあ、

「あいがとうござんーた〔ありがとうございました〕」ち言うて、

その和尚さんのめっちゃ〔やたらに〕言いやっち言うもんのう。

そいぎい、自分が勝っちゃあかのう。

ほんにどういうことじゃいかんにゃあと、こう思うとったち。

そいぎい、螺子兵衛門(ねじえもん)に小僧が出て行く時にゃあ、

「どげな〔どんな〕だったかあ、螺子兵衛門こそ」

「ふーん、お世話なって」ち言うて、出て行っていたて、どっちみち話やあてみたて。

ところがもう、

「俺が蒟蒻(こんにゃく)作いと思うたもんじゃい、

『蒟蒻(こんにゃく)ちゅうもんなこい位(くり)ゃあでござんすか』

ち言たもんじゃい、ふうけろ〔あほか〕、蒟蒻芋はこぎゃん〔こんなに〕太かじゃあ」

ち言うて、こぎゃんして見せたち言う。そいぎい、

「『蒟蒻はどがん〔どのようにして〕作っかあ』て、

言いなったもんじゃい、こぎゃーあん厚う作いよっ」ちて。そうしたいば、

「『三里どま〔ぐらい〕すっかあ』ちて、やったけんが、いんにゃあ〔違うよ〕、

十銭すっじゃあてして見せた」ち。そいぎい、

「『五銭に負けろ』ち言(ゆ)うて、言うたもんじゃい、そや、

あかべこしょくいやい〔あかんべーください〕」ちて、こがん言うたもようたいのう。

「そん時ゃあ、あさん〔あなた〕が勝ったろうごたんない」ち言うて。

それでその、またほんに言うて、お寺から言いなったもようたい。

ところが、こいどん〔こいつら〕がもう、

「今度、螺子兵衛門(ねじえもん)と一緒(ひとち)行くない、こりゃあ、ろくな目に合われん。

もう、俺どま螺子兵衛門(ねじえもん)と一緒にゃあ行くみゃあじやっかあ〔行くもんか〕。

もう、あぎゃん銭(ぜん)ばかい使われて。

俺どまもう、螺子丘ハ衛門ばかいよかやっかあ」

ち言うて。そいぎい、こいどん[こいつら]がその、

途中までで近道ばちいしたもようじゃんのう。

そいで、螺子兵衛門な一人(ひとい)にゃあたもようたい。

ところが、螺子兵衛門な一人なってずーっと、帰って来よったところが、

神さんのおいなって、参(みや)あったて。

そうしたれば、十銭金ばいっちょ〔ひとつ〕持っとたとば、

一銭金と思うて上げたもようじゃん。

そうしたところが、ちゃあーんと、十銭金ばちい上げて、

一銭金ば持っとったもんじゃい、とうとう、その賓銭箱の中(なき)ゃあ

入(ひゃあ)ったもんじゃい、取られんもんじゃい。

それで、ずーっと、帰って来よったところが空腹(ひだるう)してこたえんちゅうもんのう。

そいぎと、何なっとん〔なんなりとも〕食おうごたっばってん、こいが銭(ぜん)持たんて。

一銭金一枚(みゃあ)銭持ったちゃどがんすっかあと思うて、

行きよったところが、餅屋の前、看板餅のこう太かとの出とったたもようたい。

そいぎい、

「餅ばいっちょくれんかい」て、言うたい。

「幾らすっかい」て、言うて。ニ銭」て、言うたもよう。

そいぎその、一銭持っとんもんじゃい、一銭ポーンと、放い投げて、そうしてその餅ば、

そこにあったとばいっちょ持って、かけてひっとれた〔はみでた)もようたい。

〔大成 五二〇 蒟蒻問答(AT九二四)

 (出典 吉野ケ里の民話 P146)

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