神埼市神埼町平ヶ里 吉岡初次さん(38)

 とにかく、人間という者は嫁行ってから遠慮していかんと。

正直でなくてはいかんと、言う風なお話をその、娘さんが聞いたと。

そうしたところが、その娘を非常にもう、好む人のあって、

是非と言う風で、結婚がすんで。

そうして、三日位(ぐりゃ)ゃあ経ってから、

「お母〔か〕さん、お父(と)さん、よかかんたあ」ち。

「ないばかん〔何をね〕。遠慮なし言うてんやい」て。

「いんにゃあ〔いいえ〕、私(あたし)ゃどうも言われん。

もう、ほんに三日も四日も、こらえとった」と。

「そぎゃーん〔そんなに〕こらえとかんちゃあ〔ないで〕、もう、

素直に早(はよ)う言わじゃこて〔言いなさい〕。

そいぎい、すっきいー〔すっきり〕しゅうがあ〔するだろう〕」

と、言うたところが、

「私やもう、何でんもう、素直に、あのー、おとなしゅう行けち言(ゆ)うて、

しっかいお寺の坊さんから教(おそ)えてもろうとっばってん、

ありゃあ、嗅(か)がれんもんにゃあ」ちて。

「どうあっかん」て。

「そん時や、私が言うごとしてくんさい」て。

「お父(と)さんなこの柱と、お母(か)さんなこの柱と、

しっかいかがいちいとって〔つかまとって〕くんさい」と、

言うたところが、「覚悟はよいかあ」て、こう言わしたて。

そいぎい、それを同時に、

「ギーン」と、こうやったところが、

「ああ、そいくらいのことやったかい。早う言わじゃこて」

そがん言うて、人間なそぎゃんこらえとっことはいらんて、何でん。 

〔大成 三七七 屁ひり嫁 (cf.AT一四五〇)

 (出典 吉野ケ里の民話 P137)

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