神埼市神埼町戸井土 西 ラクさん(41)

  あるところに一人(ひとい)の男がおって、

その男がなた、あの、二号さんば持っとったんたあ。

そいぎぁの、本妻さんは病気で亡くなんさった。

そしてあの血の地獄に落ちとんさんもんなた。

そいぎあの、その村に毎晩なた、

あの、幽霊が出(ず)っ、立派(じっぱ)か女が。

そいぎとは、あの、これは、あの、誰(だい)でんが

それ怖(え)っしゃあしてなた〔怖がって〕、あの、

なんとかしてその正体を掴(つか)まゆうで思うばってん、

誰でんその、夕方(ゆうるし)なっぎとは、

そこさい行きやえじ〔行くことができなくて〕おんもんなた。

そいぎとは、

「そんなら、私が行ってみようかあ」ちて、ある侍がそいばなた、

あの、聞いてそこのちようどその、出る所に行たとった。

そうしたところが、案の定なた、夕方なったところが、

鳥辺山から生臭い風とともにくさんたあ、あの、その女が現われたたんたあ。そいぎとは、

「おい、待て。お前は、あの、何処(どこ)に行くか」ち。

「俺はあすこに、あの、その男があつけ今、お酌して酒飲みよっ」て。

「そいぎい、あの女を掴まゆうで思うて来よっ」て。

「そいばってん、その角口(かどぐち)に大般若のお守りがある」ち。

「そいで、私ゃ入い込まれじおっ〔入り込まれずにいる〕」て。

「そいけんが、その大般若のお守りさんば、あの、外してくれんですか」ち、

その侍に言うたんたあ、その女が。そいぎとは、

「そしたらお前、俺が剥(は)がしてやるから、ああ、首を取ってきたなら俺にやれ」ち、

侍が言うもんなた。

「あの、それはやられん」ち。

「私(あたし〕は血の地獄に落ちとっ。そいけん、その、あの、足の下に敷(す)こうで思うとっ。

その女を捕(と)ってきて。そいけんが、そりゃあ、やられん」ち、言うもんなた。

「ああ、そうか」ち。そいばってん、その侍がなた、言うこと聞いて、

その角の大般若のお守りさんば退(の)けてくいたたんたあ。

そうしたところが、その幽霊はもう、スーッとその、お酌してその、

一杯飲みよっところばひっ掴まえてなた、首さげて持って来た。

そいけんが、やっぱり角口にそげな大事なお守りがなた、貼っとくと、

ちょっと無駄じゃないち言う、ちょっと由来(ゆわれ)ば昔のお爺さんが言うて聞かせよんさった。

そいけん、うかつに罪ある二号さん持ったいなんたいして、

そがんしてもできんという意味となた。

大般若のお守りの大切なこと。

〔本格昔話その他〕 

(出典 吉野ケ里の民話 P114)

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