神埼市神埼町横武 馬場崎タツさん(12)

 むかしなたあ。

よかお爺さんのおんさったって。

そいぎその、難儀なその娘が三人おってなた。

難儀な娘がおれば、よか所によか娘もおるもんなたあ。

そいぎその、

「俺が死ぬ時にゃあ、あそこの庭にその、石ばやっとっ所ば、

あそこの石櫃(いしびつ)ば開けて、あれ、俺が死んだ時、

お前たちの俺と俺が思うばってん、

来てくれんないばその、誰(だが)して来てくるっ」

ち言(ゆ)うばってん、もう誰(だい)でん、

「いや」ち言うもんな。

そうしたら、いちばん難儀な娘がなた、

「お爺さん、私(あたし)がすっ〔する〕」ち言うて、言わしたて。

そいぎなたとは、もうそれ決まったったんたあ。

そいぎにゃあもう、お爺さんの亡くなんさったいば、

石櫃ば開けじゃなんみゃあがあ。

そうしたら、金のなたあ、沢山(どっさい)入れてあったて。

「こやあの、私が言うことを聞いた娘にくるっ〔やる〕」て。

「石ころでん何(なん)でんいらんばんたあ。その娘にくるっ」て。

「真心のある娘にくるっ」て、書(き)やあて入れてあったて。

そいぎい、難儀な娘がいちばん貧乏て。

お爺さんの言うとば、埋(い)かろうごとあんもんかい

石櫃(いしびつ)の中(なき)やあ。

そいばってん、そこばちょっと聞いとんもんじゃい、

こりゃあ、ほんなは。ことばい〔だよ〕と思うてなた。

そいぎい、石櫃ば開けなっ時やあ、もう泣きないよって〔泣いておったと〕、

その娘は。そいばってんなた、立派(じっぱ)に書ゃあて入れてあったて。

「俺が言うことば聞いて、死んだ時、『来(く)っ』

ち言(ゆ)うごたっ娘に、こりゃあくるっ」ちてなた。

そいばっきゃあ。

〔本格昔話その他〕 

(出典 吉野ケ里の民話 P109)

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