神埼市神埼町横武 馬場崎タツさん(12)

 むかしなたあ。

二番嬶(がく)さんおっとこれぇ、お父(とつ)たんの、

「京詣()ゃあしてくっ〔くる〕」ちて、行たてやったて。

そいぎにゃあと〔そうしたら〕、

「俺(おい)が、京の笛と、京の鏡と買ぅてくるっけん、おれや」ちて。

そうしたいば〔そうしたら〕、もうお母さんのなたあ、もう悪うして悪うして、

もうどぎゃんしゅんなか〔どうしょうもない〕こっちゃん。

そいぎあの、隣(とない)のお母さんのひょろっと〔急に〕来なったて。

そいぎぃ、

「お前は、何(ない)炊きよっかい」て。

子供ばなたあ、大釜(ううがま)に入(いっち)れて、蓋(ふた)して炊きよらしたて。

そいぎなたあ、

「味噌豆、煮よっ」て。

「そいけん、味噌豆は七里も立ち返って食う」て、言わすばってん、

隣のお母さんが開けて見らしたて。

そしたいば、子供ば、そして釜の後ろに埋けておったて。

子ばくさんたあ〔をですね〕。

そしたら、尺八のなたあ、立派(じっぱ)い尺八竹の植わって。

そいぎなたあ、虚無僧(こむそう)さんが入(ひゃあ)ってきて

「この尺八竹を売ってくれろ」て。そいけん、

「そやあよかない〔それはよいね〕、よかくさんたあ〔よいですよ〕」

て、嬶(がく)さんの言わしたて。

そしてなたあ、買(こ)うていたて。

京に行たて尺八ば吹かしたじゃろぅたあ。

京の鏡は何になろう

京の笛は何になろう

父(とっ)たん恋しやチンチロリン

継母恨めしチンチロリン

て、鳴(に)ゃあたて。

そいけん、こりゃあ家(うち)どんじゃ〔自分の家じゃ〕なかろうかと

思うてなたあ、帰って来なったて。そうしたぎなたあ、

「あの、家の子供は」と、親父さん入って来なったて。

「家ん子供は、そこん辺(にき)ぃ、遊びぎゃ行たろう」ちて、

よその子ば借ってきてなたあ。そして、おみやげ取ってしもうたれば、

「もう帰ろい。帰ろい」と、言うてっちゃんなたあ。そいぎぃ、

「こん畜生(ちきしょう)、ほうら、こぎゃなあ(こんな)ことしとっ。

笛がちゃんと教(おそ)えた」ち、言うてなたあ、もう、こいくそ〔これこそ〕

親父さんの腹きゃあて〔怒って〕、叩き殺すごと合わせさしたてたんたあ。

そがしこで〔それだけで〕、こいばっきゃあ【これでおしまい】。

〔大成 二一七 継子と笛 (AT七八〇A)

 (出典 吉野ケ里の民話 P82)

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