神埼市神埼町平ヶ里 牟田文次郎さん(明30生)

 下女が朝起きたところが、その火も消えんごと火鉢に火を埋けて、

その朝に限って、その火が消えてしもうとったて。

そうしたところが、ほんに困ったねぇ、ご主人からほんにやかまし言われるっばい、

どがんすっきゃあ〔どうするかあ〕と、思うとったところが、

門先(かどさき)出て、こうして眺めよったところが、向こうの方から、提灯の火の来よったて。

そいぎと、よし、あの火ば貰うていっちょ〔ひとつ〕、

早(はよ)う埋けとかんばでけんばい〔いけないよ〕と。

ちょうど、葬式の道具ば持って、葬式の火じやったて。そいぎぃ、

「この火はくるっばってんが〔やるけれども〕、この、あの、棺ば預けさせてくいろう」て。

そんない、どがんすっきゃあと思うて、

「そんないよか。倉の中に入れときんさい」て。

そして、ご主人には黙って、わが〔自分は〕知らんふいしておったて。

そうしたいば、ご主人が朝、顔洗いぎゃ起きて来てから、

「姉(ねえ)ちやん、姉ちやん。お前(まい)、蔵の中に何(ない)入れとっとかい」

ちて、尋ねたて。そうしたいば、

「ああ、ほんに、本当にすいません。今朝、こういうふうで、火をなくした」て。

「折角、火を埋けとったばってん、消えてしもうとった」ち。

「ほんに申しわけございません。実は、こう言う風で、

提灯の火の来よったけんが、この火ば貰(もろ)うて、焚(た)つけた」て。そうしたぎい、

「いんにゃあ〔ちがう〕、火じゃなかばん〔ないよ〕。

あや、何じゃい〔何か〕ほんに光いよっぜぇ〔光ってるぞ〕」ちて、

「ちょっと、来てんやい〔来てみなさい〕」ち言(ゆ)うて。

そうしたところが、葬式の道具じゃなくして、今んごと小判の光りじゃったて。そいぎい、

「こや、葬式じゃなかろう。こや、金じゃっかん〔じゃないか〕」ち。

「金の光いよっ」と。

そいぎと、葬式の来っ時ゃ、道で行き合うとは、ほんによかぼう〔よいよ〕、

ち言う話を聞かせらいたことがあっ。

〔大成 二〇二 大歳の火 (cf.AT七五〇)〕

(出典 吉野ケ里の民話 P83)

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