神埼市神埼町下六丁 語り手不詳

  こりゃあ、川上の惣座(そうざ)(佐賀市大和町)という所の、

あんなた〔あるね〕、部落で。

あすごは惣座て、ここんたい〔この辺の〕者(もん)は普通、

あすごはスウダ・スウダで言うじやん。

惣座にタロヨンというとの百姓のおったて。

もう、結局、馬車引き人夫じゃろうなた。

そいが、結局その、親、お母(か)さんとその息子一人(ひとい)で、

こぎゃん〔こんなに〕まじめかその、おとなしか青年じゃったて。

そして、あつこの、早津江(佐賀郡川副町)

昔その、米屋じゃっこっちゃい何(なん)こっちゃい、

とにかく金持ちのおいなったて。

そこに、結局、米ば納めや行きよったて、馬車引いて。

そうしたぎい、その辺(にき)のその、川上辺のその、惣座ん辺のあいが、

「ほんに、あさん〔あんた〕も嫁御ば呼ばんばいかん」て。

「嫁御いっちょ世話せぇじゃない」ち言(ゆ)うて。

そいぎい、お母さんの、

「塩梅(あんびゃ)あのよかとのあんない〔良いお嫁がいるなら〕、

いっちょ世話してくいござい」て、言うごたふうに頼みなったらしかたい。

そいぎなた、その、仲立ちがその、上手者(もん)で、

その、タロヨンの馬車に引いとっとにゃ、年中旗立ててさい、

ええ、今で言うぎ商標たんたあ。

タロヨンがと、と言(ゆ)うごとでドンドンドンその、

早津江の米屋の倉庫に入れよったて。

そいぎぃ、向こうの米屋の親父が、

早津江の米屋の親父がその、もう、そがん次から次、ぎゃん持って来つごと、

どいしこ〔どれだけ〕米の取れよっごと

財産のあっこっちゃい〔あるかどうか〕わからんち

言ううごたふうで、その、娘ば、うまくそいが、

仲立ちが騙(だみ)ゃあとんもんじやい.

そいもんじゃい〔それだから〕その、嫁くさんに、

家(うち)の娘ばもう、やろうというごと

騙ゃあてその、くいろ〔(嫁に)くれ〕ち言う形になったらしかたんたぁ。

そいぎい、結局、向こうからもう、昔じゃいけん、聞き合わせなったやろうなた。

もう、とにかく、箪笥(たんす)長持ちゃ、

もう、むやみ持って来て、行列で来たて。

そん時にその、

「もう、嫁くさんの来(き)なっけん、早(はよ)う燗(かん)どんつけよれぇ」

ち言うて、仲立ちが言うたて。

そいぎぃ、わがそいもう、杉の小枝どん炊(ち)ゃあてその燗瓶な

真っ黒にゃあて〔にして〕、燗つけて、えぇ、ちょうどしよっ時、来たてっちゃん。

箪笥長持ちの来たて。そうして来てみたぎぃ、破れ小屋の小(けんちょ)かとに

箪笥は並びゅうもなかったてっちゃんなた。そいでもう、行列してその、ちょっと、

米屋の娘が嫁じゃんもんじやい、どうして周囲が

騒動してつんのうて〔ついて〕来とんもんじゃい。

ところが、そういうふうでもう、仲立ち、親父はもう、

仲立ちからうまく騙されとんもんじゃい、

「もう、連れて帰っ」て、ほんに腹きゃあ〔怒って〕とって。

そん時に、その娘が、

〔俺(おや)もう、いったん出てからその、ここがもう、

タロヨン所(とこれ)ぇ嫁に来たからには、

こけおつ〔ここにいる〕ち言(ゆ)うごたふうで、

もう、絶対動かんやったてったんたあ。

そいぎもう、親父どま〔たち〕腹きゃあて引っ帰ったて。

そいぎぃ、うぅん、その晩にお母さんのその、

「明日(あしち)ゃあ食う米のなかぼう〔ないよ〕。

どがんすっかあ〔どうするかあ〕

嫁くさんも来(き)なったとこれぇ、明日ゃあんとは米なかぼう」ちて。

そいぎぃ、

「『どがん』て、銭ゃ持たんばい」ちて。

そいぎい、「どがんすっかい」ちて。

そういうふうな話ば嫁くさんの聞きなったて。

その娘が、そいぎい、聞いておられんもんじゃい、

米屋の娘もんじゃい、大抵(たいて)、持参金のあったらしかたんたあ。

そいで、昔の小判ば出(じ)ゃあて、

「こいで米ば、あの、買(こ)うて来んさい」ち言(ゆ)うたぎい、

「とても、ちかっと〔少し〕一升(いっしゅう)じゃい二升じゃいろう、

そがんちかっと買わんてちゃ、こいで買うない大抵ぐらい買わるっけん」

ち言うて、ええ、嫁くさんの銭出しなったて。

そいぎい、タロヨンがその銭ばなた、見て、

「こや銭か。ぎゃんとで〔こんなので〕買わるんもんか」

ち言うて、銭の価値ば、結局、知らんやったしかたんたあ。

「そがんとで〔そんなので〕米の買わるっか」て、

ほんにその嫁御にやかましゅう言うたて。そいぎい、

「こいで買わじにゃあ、何(ない)で買うかんたあ」ち言(ゆ)うごたふうで。

そいぎい、「そがんと、家(うち)どつさいあっ」て。

「そがんたあ〔そんなのは〕、わが裏の畑辺(にき)や、

わが、甕何杯(かめなんびゃ)あでんあっ」ち。

「そがんとの銭かのう」ち。

「そがんとのあんない見せてみんさい」て、言うたところがその、

タロヨンが言いよった所(とこ)の畑の隅行たぎい、

その甕の沢山(どっさい)埋かっとっちゃん、

あっちこっち。そいがもう、昔の小判のもう、

沢山、どいの〔どの〕甕でんいっぱい入っとって。

そいぎもう、結局、いちやくもう、そいで、

そいしこ財産のあんもんじゃいなた。

そいもんじゃいその、結局、米屋より余計(よんにゅう)金持ちになったて。

そいばあきゃあ。 

〔大成 一四九A 炭焼長者.初婚型 (AT八二二、+cf.八四一、cf.九三〇A)〕類話

 (出典 吉野ケ里の民話 P73)

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