神埼市神埼町尾崎西分 山口秀次郎さん (明17生)

 あの、狐の息子が三吉ち言うもんなあ。

そいでその、お母(か)さんがその、杖の中(なき)ゃあその杖ば、

ずーっと持って歩(そう)つきよっけんのう。

その杖の中ゃあ、そのお母さんが入っといなったわけたい。

信田の森の白狐がなあ。

そして、その、それがその、なしそがん〔なぜそのように〕なったかち言えば、

元その、野狐狩りのあったもようたいのう。

そん所(とこれ)その、侍さんたちがおって、

そこさい、網ん所(とこ)さい逃げて来たもんじゃいのう。

じいっと開けて逃ぎゃあくいた〔逃がしてくれた〕もようたいのう。

そいぎい、逃ぎゃあくいたぎにゃあ、その狐が、ほんにこりゃあ、

お陰何なっとん〔何なりと〕恩返しばせんばらんと思うてなあ、

ずーっとその、思(おめ)えよったもようたい。

そうしたところどがん〔どのように〕して恩返しゅうよいたなかもんじゃいその、

その人(した)んの奥さんに化けたもようたいなあ。

そうしたところが、奥さんに化けなっていたところが、

どいがほんな奥さんじゃ(か)いわからん。

わが(自分の)奥さんと、どつちがほんな奥さんて

言おうよいなかごと立派いしとんもんじゃいのう。

ところが、今度(こんだ)あその、狐が妊娠になったわけたい。

妊娠になった子供が、その三吉て。

ところが、ずーっとそがんして、お母さんなぞがんふうで

杖の中(なき)ゃあその、ずーっと入っといなっけんがその、

何(ない)でんがその、杖ば〔に〕聞くぎにゃあと〔聞いたら〕、

お母さんが言う聞かせなったもようたい。

そいぎぃ、殿さんがその、ほんに酷(ひど)かあい〔こと〕して、

もう、ゆうなか〔よくない〕ごたっふうな病気ばしなったて。

そいぎい、どがんしてなっとん〔どうしてでも〕治そうでて誰(だいでん)、

全部(すっぱい)かかいで〔かかって〕しなっばってん、治らんて。

そいぎその、三吉がその杖ばちいて(ついて)歩(そう)ついて、

そこん辺(にき)の大工さんでん、誰でんその、こいがその、

たちまち去るべき災難はて、こう歌うたいなあ。

たちまち去るべき災難は知らぬ者こそ不便なやて、歌う歩つくたい。

ところが、何(なん)のことじゃい、わからじおったいのう〔わからずにおったからね〕。

そいばってんもう、誰でん、大工さんじゃろうが、何じゃろうがもう、

たちまち去るべき災難は知らぬ者こそ不便なやて、誰(だい)でん言うごとなったわけたい。

そうしたぎにゃあ〔そうしたらねぇ〕、

「その歌は何(なん)か」て、言うてその、三吉に聞いたもようたい。

「誰じゃい〔か〕殿さんの病気ば治し道(方)ば知らんけんくさい〔知らないからね〕。

そいばってん、そりゃあその、殿さんの病気はその、今、寝といなっ床の下にその、

『シシュゥムシュゥ』ちゅうて、言(ゆ)うて虫のおって。そいと、

何とかの虫と取ってその、寝といなっ床の下に埋けてやいござい。

そうすっぎにゃあ〔そうしたらなあ〕、あの病気はじき治っ」と言うことば、

三吉が教ゆったいなあ。そいぎい、

信田の森の白狐……

そいぎぃ、やっぽいその、埋けてやったぎじきやっぱい、

殿さんの病気の治いなったもようたい。

〔大成 一一六C 狐女房・二人女房型〕類話

(出典 吉野ケ里の民話 P53 )

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