神埼市神埼町尾崎西分 山口秀次郎さん(明17生)

 むかしのまい(ねえ)。

庄屋さんがその、旱魅(かんばつ)も旱魅、ほんに旱魅でのう、

もう田圃くれかやしばして(耕しをして)しもうとっばってん、

もう、真っ白して水のいっちょでん(ひとつでん)、

もう、堤、水が溜っとらんちゅうわけたい。

そいぎい、ずーっと行きよったところが、田圃ば回って、

「ほんに雨の降ってくるっぎい〔ふってくれたら〕、

よかばってんにゃあ。雨の降らん」て言(ゆ)うて、悔やんで

その、庄屋さんが行きないよったとば、

小(こう)まか蛇(くちなわ)のクリクリクリちて、

立派か蛇(くちなわ)の通ったちゅうもんのまい。そいぎい、

「ありゃあ、こりゃあ、蛇の立派かじゃろう」て、こう言うたもようたいのまい。

「ほんに、こやねえ、ほんに雨のいっちょ降ってくるつぎにゃあ、ほんによかばってん」

て、ぎゃん言うて通いなったもんじゃい。

そいぎい、その人(したん)なあ、あの庄屋さんな娘ば一人(ひとい)持っといなったて。

そいぎその、ほんなこてもう、晩に立派か侍さんが来てのまい、

刀二本刀を差(し)やあて来て。そうして、

「ごめんなさい」て言うて、来たもんじゃいその、いい侍さんもんじゃい、

ちょっとあがんとして歓迎してしよったところが、

「あんたあ、今日(きゅう)は田圃ば回って歩(そう)つきよったたんたあ」て、

そがん言いなったて。

「はい。回って歩きよった」て。

「そん時、あんたあ、こぎゃん言うて通ったやっかんたあ」て。

「『ほんに雨ばいっちょ降らせてくるつぎにゃあ、

ほんに俺、一人(ひとい)持った娘でんくるっ〔嫁にやる〕ばってん』て言うて、

あなた独りごと言うて行きよったろうがあ」て。

「なあーい。そりゃあ、言うて行きました」て。

「そん時、あすけえ私(あたし)やあ聞いとったとは、あの蛇よう」と、こう言うた。

「ああ、そうかんたあ」て、立派(じっぱ)な侍さんもんじゃのまい。そいぎい、

「雨は私が降らせてやっけん。

そいけん、ほんなこてこなた(本当にこなた)の娘ばくいてくるっかんたあ」と、

こぎゃん言いなったて。そいぎい、

「ううーん」

「そりゃあ、降らせてやっ」て。そして、

「こいから、そのもう、末代そがんして〔代々そのように〕くるんないば、その、水難儀はさせん」て。

そいぎい、そこで、そんないくるっ〔嫁にやる〕ちゅうがたっふうに

なったぎにゃあ、今度(こんだ)あ、固めば持って来なったもようたい、侍さんがなあ。

そうしてから、そがん祝儀のあって。そいから言いなっことにゃあ、

「私ゃその、あすこの、池の堤の主。

そいけんが、お仏飯(ぶっぱん)ば一斗(いっと)炊(ち)ゃあて、

お仏飯上げてくんさい。そうしてその、堤の真ん中(なき)ゃあ埋(い)けてくんさい。

そうすっぎにゃあもう、こいから末代、水難儀させんけん」ち、

こう言いなったち。そいでその、

「ううーん。そいば、そがんしまっしゅう」て言(ゆ)うて。

そいぎぃ、村ん者(もん)も喜うでない〔喜んでね〕。

そうしてから、

「何時(いつか)の日、雨降らすっ」ち、言うて決めといなった。

そいからその、お仏飯ばその堤の中やあ入れて、埋けてなたあ。

「そいじゃもう、あんたたちと親子ばってんがその、

こいからもいよいよあんたと、その娘とは逢やあされんよ〔〔逢われんよ〕」て言うて、

言いなったもようたい、侍さんがなあ。そいで、連れて行きなったて。

「一代の別れやっけん」て言うて。

そいぎにゃあ、その明くる日は、恐ろしゅう酷う雨の降ったて。

そいで、田圃はもう、いっぴゃあ水のかかったちゅう話。

そいでもう、あぎゃんとはその、蛇がギリギリ巻(も)うてのう、

その女(おなご)と巻うて。

太か蛇のギリギリ巻うとっち。

そして、その堤の中(なき)ゃあ入っとっもようたいのう。

そいで、水のかかって。そいから先やあもう、水難儀せんごとなったち言う話。

そいばあっきや。

〔大成 一〇一B 蛇聟入・水乞型 (AT四三三A)〕類話

(出典 吉野ケ里の民話 P43)

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