神埼市神埼町平ヶ里 牟田文次郎さん(年齢不詳)

 むかしむかし。

あるところに下女が住んでいた。

ある朝、下女が起きて火鉢を見たところ、

火だねが消えてしまっていた。

下女は主人からしかられると思って、火だねのことばかり心配していた。

途方にくれて下女はぼんやりと外を眺めていたら、

ちょうちんの火が見えてきた。

近づいてからよく見てみると、

それは葬式の道中でちょうちんの火であった。

下女はその火をもらおうと乞うたら、

「この火は差しあげよう。しかし、棺を預けさせてくいろ」と言われた。

「それなら、倉の中に入れときんさい」と下女は言った。

下女は主人に火だねのことを黙っていた。

主人は朝、起きて顔を洗いに来た。そして、

「ねぇやぁん、ねぇやぁん。おまえ、倉の中に何を入れとっかい」

と、主人は下女に言った。

「本当にすみません。折角、火を埋けとりましたが、

消えてしまっておりました。本当に申しわけございません。

実は、葬式のちょうちんの火をもらって、火だねを作りました…」

と、下女は主人から注意されると思って、あやまった。

「いんにゃあ、火じゃないよ。

倉の中に何か光りよっぜぇ。ちょっと来てんやい」

と、主人は驚いたようすで下女に言った。

下女は主人から言われるままに倉の中をのぞいてみた。

葬式の道具とばかり思っていたけれども、それは小判の光りであったので、

「これは葬式の道具じゃないよ。これは金の光りよ」

と、主人はびっくりしたようすで下女に言った。

それで、葬式の行列と出合うのは、本当によいそうだ。

そいばぁっきゃ【それでおしまい】。

(出典 佐賀の民話第二集 P79)

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