神埼市千代田町大島 島 イサさん(年齢不詳)
むかしむかし。
あるところに大工さんが住んでいました。
大工さんはずうっと仕事に通っていました。
それで、その家のきれいな女にほれてしまいました。
そして、大工さんとその女は結婚し、子供も生まれました。
ある夏の暑い日、大工さんは仕事に出かけました。
ふだんより早く大工さんはわが家へ仕事から帰ってきました。
すると、妻は子供を抱いて昼寝をしていました。
大工さんは昼寝をしている妻の姿を見てびっくり仰天しました。
なぜなら、妻の体にうろこがたくさんついていたからです。
もう、それは妻ではなくて、大工さんにとっては、
恐ろしくて目を開いていることもできなかったほどの、大蛇の姿であった。
大蛇は正体を見破られて、
「おまえさんとは夫婦として暮してきたが、別れさせてください」
と、大工さんに言いました。
そして、大蛇が別れぎわに自分の目玉を取って、子供の遊び箱の中に入れて、
「これは子供の遊い物に。決して蓋を開けてはいけませんよ」と言って、
「私は某池に沈んでいます」と言って立ち去りました。
子供はその箱を持っていると、おとなしく遊んでいることができました。
大工さんは、その箱を開けたくて開けたくてたまりませんでした。
とうとう大工さんはその箱を聞けてしまったのです。
すると、プーと、何かが飛んでしまいました。
すぐに大工さんは箱の蓋をしました。
そして子供に箱を与えたけれども、
子供は晩も泣く、朝も泣くといった具合で、
大工さんはどうすることもできなくなりました。
大工さんは、大蛇が立ち去るときに某池に沈んでいると
言ったことを思い出して、その池端に行って、
「こうして、子供が泣いてしょうがなか。
晩も泣く、朝も泣く。もう、ずうっと泣く」と言ったら、
大蛇は池の中から浮きあがって来ました。そして、
「私の目は片目ばってん、もう一方の目玉をあげますけん、
箱の中に入れてやんなさい。子供は泣かんでおとなしくなるばい。
でも、私は朝じゃい、晩じゃい、いっちょでん(まったく)わからん。
そいで、お寺の鐘ば朝晩に鳴らしてくんさい」と、大蛇は言って、
また池の中に沈んでいきました。
大工さんは、大蛇から言われたとおり、
箱の中に目玉を入れて子供に与えました。
今まで泣いていた子供は、うそのように泣きやんでおとなしくなったのです。
それからというものは、
お寺の鐘は朝と晩に鳴るようになったということです。
(出典 佐賀の民話第二集 P86)
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