呼子町小川島 鳴海常蔵さん(明42生)

 おっ母()さんがですね、あの、良弁和尚がまあーだ小さか時、

木の枝にフゴに入って、その、自分の仕事しよっ田圃の際に、

あの、かけとらしたて。

そして仕事をするし、鷲がきて攫(さら)ったわけね。

そいで、こりゃあ、攫ったと。

(おり)ゃあ、一人(ひとい)しか持たん子ばちゅうところですね。

年の六十、七十になってんですね、

あん、子どんばズーッとそん、探して歩(さる)かしたちゅうね。

そいでそん、あん時、和尚さんの何処から見ぎゃあ、

良弁杉に鷲が持ってかけとるわけね。

そいばパーッて取ったて。

そこに参り行かすわけ、年一回ね。そいば聞いて、かれかれ行たっとらしかたい。

ところがそん、こいじゃなかったろうて、いう何(なん)じゃったそうね。

(あんま)り近(ちこ)う寄らすもんじゃいけんな、

わが子ば探すため難儀しとらすわけ。

今度(こんだぁ)その、和尚さんからな、

「あんたあ、こけぇに参(みゃ)あり来とらすとはどぎゃんわけか」

と、尋(たん)ねとらす。そいぎぃ、

「私ゃ何年前その、子ば鷲から攫(さら)われた」て。

「そいけんヒョッとしたら、ここん杉そん、フゴに入って男の子のそのおった」ち。

「ヒョッとしたら、俺(おい)が子じゃなかろうかと思うち、

私はそん、ヒョッとすると、お願来ました」て言うた。

良弁和尚も考えとらすたいなあ。

それ今度(こんだぁ)、わが着とったですね、フゴに入ってその、

引っ張った時のですね、まあーだその、小さい時の着物ですね。

それもとっとらしたそうです。

そいで、おっ母()さんにこん着物ば着とったと。

そいでこりゃ、私はお父さんに会()あたか、おっ母()さんに会あたかけん、

ぎゃんしとっとりますてな。

そいで、その人が、俺(おい)がわが子に着せた品物ち。

そんならお母さんと会いなさった。

今でん、その着物はやっぱいあったですよ。

(出典 未発刊)

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