唐津市北波多村田中 加茂静栄さん

 ある日、勘右衛門はどこかに行って、

「家には、八十年もかかって埋めよるけども、うずまらん穴がある」

と言った。すると、ある人が、

「『八十年も埋めて、埋まらん』て、どんな穴か行って見よう。

いっちょん埋まらんと。

そりゃあ、珍らしい穴じゃなあ。いっちょ見に行こうか」

と言った。

ある日、大勢の人々が連れだって勘右衛門の所にやって来た。

そして、あるひとりが、

「勘右衛門どん、あんた、『家には八十年も埋めて、埋まらん』

ていう穴はあるちゅうち、どこにあるかい。見に来た」

と聞いた。勘右衛門は、

「あぁ、ここに、うちの家ん中にある」

と、すました顔で言った。

すると、大勢の人々は、何のことだかさっぱりわからなかった。

その中のひとりが、不思議そうな顔つきで、

「『家ん中にある』ち。八十年も埋まらん穴の家ん中にある。おかしいやないか」

と、勘右衛門にたずねた。勘右衛門は大勢の人々にむかって、

「見しゅうか」と言った。

「そんなら、早よう見せてくれんかい」

と、ひとりが言った。

すると、勘右衛門は、八十になるばあさんを呼んで、

「おまえ、口ば開けんかい」

と言った。ばあさんは何のことだかわからなかった。

大勢の人々も何のことだか、さっぱりわからなかったので、口をそろえて勘右衛門に、

「こりゃ、何事かい」と言った。

勘右衛門はすました顔つきで、

「こりゃあ、八十年も埋めるばってん、まあだいっちょん埋まらん」

と、大勢の人々に言ったとさ。

(出典 佐賀の民話第一集 P206)

標準語版 TOPへ