唐津市鎮西町加唐島 西村ハルさん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

あるところに貧しい夫婦が住んでいた。

ある日、男は磯へ釣りに出かけた。

男は釣りをしていたら、鯛が釣れた。

ところが、鯛から望みをかなえてやるから、

逃してくれと懇願され、男は逃してやった。

そのことを男は女房に話した。すると、

「そういうことてあるもんか。また釣って来んね」

と、女房は残念そうに言った。

また、男は磯へ釣りに行き、

「聞いてください海の人。女房オロクがせがむゆえ」

と言ったら、逃した鯛が釣れた。男は再ぴ逃してやった。

家に帰ってそのことを女房に話すと、

「なし、願いごとばしてこんね。

よか家ば建ててもらうように、願わんけん」

と、残念そうに男にせがんだ。

男は、また磯へ釣りに行き、

「聞いてください海の人。女房オロクがせがむゆえ」

と言ったら、また鯛が現れてきたので、

「りっぱな家を建ててください」

と頼んだ。

そして、男は帰ったら、りっぱな家は建っているし、

女房もよろこんでいるだろうと思っていた。

しかし、欲張りの女房は、

「まぁーだ、よか家ば建ててもらわんね」

と言った。

正直な男は、しぶしぶまた磯へ釣りに行き、

「聞いてください海の人。女房オロクがせがむゆえ」

と言ったら、また鯛が現れてきたので、

「もっともっとりっぱな家を建ててください」

と、頼んで帰った。

よく朝、男と欲張りの女房は、

御殿のようなりっぱな家の中に坐っていた。

ところが、また欲張りの女房は、

「こんだあ、お日さまを自由にするとば頼うで来んね」

と言った。

正直な男は、また磯へしぶしぶと重い足どりで、

「聞いてください海の人。女房オロクがせがむゆえ」

と言ったら、また鯛が現れてきたので、

「お日さまを自由にするとばお願します」

と頼んだ。すると、

「もとん家、はいれ。もとん、家はいれ」

と、鯛は言って泳いでいってしまった。

正直な男は家へ帰った。

朝になってみると、以前のような貧しい家になっていた。

(出典 佐賀の民話第一集 P193)

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