唐津市鎮西町馬渡島 牧山トモさん(明12生)

 むかし。

どこかの猟師が猟からの帰りがけに、道に立派なその、

着物ば掛けてあるのを見たところが、

そうして見たところが、きれいな女が、木の枝に着物を掛けて、

池で水浴びをしていたので、この女を妻にしゅうで思うて、

着物を隠したち。

隠してそうして、またズーッと見ていたところが、

その着物(きもん)を置いたところで、その女が泣き出したて。

そいで、

「なぜ泣くか」て聞いたら、

「私はここに、自分が乗ってきた着物を置いたら、なか」て。

「それがなかれば、上ることはできん」ち。

そいで、

「そりゃ、まあどうしようかね」て言うて、

「そんなら、それが探すまで、家(うち)来とれ」て、

言うて連れて帰って、そうして自分の妻にしとったら、

子どもが出来たて。

そうして、その子が九つになるまで隠しておって、

そいで、その子どもを狩りに連れて行たて、帰りがけに、

その岩の下に隠しておった着物を出して見せたて。

「これをこら、お前(まい)がお母さんの着物よ」

「こいがなかればその、天国さに行かれんて。上られん」

「こけぇ、こうして隠しとった。そうしたら、お前(まい)ができたのよ」

て言うて、その子どもに話して。

そうしたら、あくる日、その子どもが、

お母さんを連れてそこに行たて。

そうして、天の羽衣て言いますもんな、

それに乗って親子二人飛んでいたて。

そうしたら、帰ってみれば誰(だい)もおらじゃった。

ああ、こりゃしもうた。大事(ううごと)したなあ、て思うて、

岩の所に行たてみれば、その着物がなか。

いよいよ天に上って行たてしもうたけて、思うて、

残念でしょうがなかて。

きれいな人じゃったので、後悔して思い患い、

もう病気になってしもうたて。

そうしたら、

「なして、お前(まや)、この頃なしそがん痩せとるか。

何(なん)を考えちょるか」て言われて、

「もう俺(おり)ゃあ、漁に行た帰りがけ、

水浴びしていた女の着物を隠して、そいて、

その女をわが妻にしとったところが、子供もできたけん、

その子供が余り(あんまり)可愛いけん、着物の話をして聞かせてな、

見せた」ち。

「そうしたところが、それに乗って親子とも飛んでいた。

おらんごとなってしもうた。どうしたが良かろうかて、

思案にくれておる」て言うたところが、

占いかなんかしてもろうたら、

「お前(まや)、この種を千両で買え」て。

「そして、それで、夕顔を一本作れ」て言われたて。

それで、それを買(こ)うて、それを一本植えたところが、そいが太る太る、

もうズンズン太ったて。どうしてなぁ、千両もすっとじゃっけん、

太るはずが本当。

そうして太って、もう天笠にとどくごとになって、もう届きそうなもん、

て思うて、犬を連れて、後先に一匹ずつな連れて。それに乗って上ったて。

ところが、天竺では、まぁーだ少し足らんじにゃぁ【足らないので】

犬ば一匹先に天竺に上げて、その犬の尻尾に、

まあいっちょんとを咥えさせて、それに下がって自分は上がったて。

そうして行たてみれば、その、女は機織いよって。

そうして、久しかぶいして【ひさしぶりに】尋ねて来たのに、

親父さんから、

「来たないば、その、畑に行たて瓜(うり)の番せろ」て。

「瓜がたくさん生っておる。もうそれを一つでも食べたら、

もう、川が大層深(ふー)こうなって、その、会うことはできん」て言われたて。

それで、瓜のところに行たてみれば、もうその瓜が大層その、

もう落ちてしまうてな、腐れおったて。そりばってん、

誰もちぎって食う者もおらんので、

まあいっちょぐらい食べたっちゃよかろうて思うて、一つ食べたて。

そうしたところがもう、瓜の中から水が出てきて、大きな川になって、

そいが、ドンドン大きくなって、その水に流されて行く時、

そん時、七夕さんが見てな、

「まあ、あれほど言われたのに、瓜いっちょぐらいば、

食わんでおりゃえんじゃったか【瓜一つくらい食わないでおられんやったか】」

て言うて、塩をポーンと投げたて。

そいが、今に星がありましょう、空にな。

「あれは七夕さん。あれは犬飼(いんかい)さん」て言うて。

そげん、お母さんから、私ゃ聞いた。

そうしてその、天の川の両方(じょうほう)に大きな星がな、光っとっ。

あれが七夕さん、あれが犬飼(いんかい)さんちゅうて。

やっぱいその、後先に犬を連れ格好で流れとっ。

(未刊 ― 聞き取り)

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