唐津市七山村東木浦 山崎コミエさん(年齢不詳)

 むかし。

あるところに、よく働く、お爺さんとお婆さんが住んでおった。

お爺さんは、

「もう、正月の近まるけん、餅米なかいどん【ないけれども】、

餅搗き杵ないどん、切って来うだぁ」と、

お婆さんに言って、山へ行った。

お爺さんは、山の中で餅搗き杵切った。

そしてお爺さんは、

「餅搗き杵切ったいどん、何で年ゃとろうか」とひとり言を言った。

すると、どこからともなく、

「餅米、餅米」と言う声が、聞こえて来た。

おじいさんは、よく注意して辺りを見回していると、

大きな石の下にいる、わくどう(ヒキガエル)に気づいて、

「お前が言いよったかぁ」と言って、

もの言うわくどうを拾い上げ、懐(ふところ)の中に入れて帰った。

お爺さんは、庄屋どんの家へ行き、

「私ゃ、もの言うわくどうを捕まえて来ました」と言った。

庄屋どんは、

「もの言うわくどうのおろうのう。

そがんか、もの言うわくどうのおったら、正月用の餅米とか、お金とか、やろうだん」と、お爺さんに行った。

お爺さんは、

「そんなら、言わせてみましょう。餅搗き杵は切ったいどん、何で年ゃとろうか」と言った。

すると、もの言うわくどうが、

「餅米、餅米」と言った。

庄屋どんは、

「ほんなこて言うたぁ。こりゃもう、餅米とお金と、やらやこて」と言って、

おじいさんにそれらを与えた。

おかげで、お爺さんとお婆さんは、良い年を迎えることが出来た。

そのことを隣の働かない、.悪いお爺さんとお婆さんが知った。

そのお婆さんは、

「隣のお爺さんは、よく働いた上に、もの言うわくどうを見付けて来てから、

庄屋どんから、餅米とか、お金とか、たくさんもろうちょらしたげな。

うちの爺どんは、いつもタバコばっかいふかして、何の仕事もせんで」と言って、

お爺さんに不満を訴えた。

「そんなら、隣のもの言うわくどうば借って来うだい」と、お婆さんに言った。

お爺さんは、隣へ行き、もの言うわくどう借りて来た。

もの言うわくどうを借りたお爺さんは、

隣村の庄屋どんの家へ持って行き、

「私ゃ、もの言うわくどうを持っています」と言った。

庄屋どんは、

「世の中に、もの言うわくどうのおろうのう。

そんかもののおったら、餅米やお金をやろうだん」と言った。

もの言うわくどうを借りて来たお爺さんは、

「そんなら、ようーし」と言って、懐(ふところ)の中から、

もの言うわくどうを出しながら、

「餅搗き杵は切ったいどん、何で年ゃとろうか」と言った。

しかし、もの言うわくどうは、返答をしなかった。

何べん言っても、一言も返答しなかった。

庄屋どんは、

「ほうーら。また嘘(すら)ごとばっかい言うちから。騙してもらおうでしたっちゃ、

そがんかわくどうのおるはずなか」と言った。

腹を立てたお爺さんは、家に戻ってから、わくどうを石の上に投げつけた。

わくどうは死んでしまった。

よく働くお爺さんは、隣のお爺さんがもの言うわくどうを返しに来なかったので、

取りに行った。

すると、隣のお爺さんは、

「嘘(すら)ごとばっかい、あんたが言うたけん、

石の上に投げつけたら、もうそこに死んでおっ」と言った。

よく働くお爺さんは、もの言うわくどうをかわいそうに思った。

そして、お爺さんは、

その死体を家に持って帰って来て、きれいな水で洗ってやった。

お爺さんは、明日、畑の隅にでも埋けてやろうと思って、

もの言うわくどうの死体を箱の中に入れ、床の間に置いた。

翌朝、お爺さんは、

床の間に置いていたもの言うわくどうの死体を見ると、

不思議なことに、箱一杯のお金になっていた。

そいばっかいばんねんどん【それで、おしまい】。

 

(出典 佐賀の民話2集 P184)

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