唐津市七山村東木浦 山崎コミエさん(年齢不詳)

 むかし。

あるところに、寝てばかいる息子の寝太郎と両親が住んでおった。

ある日、お母さんは寝太郎に、

「お前んごと、いつも寝とっていかん【だめ】。猫どん買うて来い」と言った。

寝太郎は、「猫飼いましょ。猫飼いましょ」と言って、町をさまよっていた。

すると、昨夜どら猫を捕まえていた家では、

「ふうけ息子が来たけん、猫売ろうじゃなっかぁ」と言って、相談していた。

寝太郎が、その家の前にやってきた。

「いくらで買うか」

「一貫目で買いましょ」

「そんなら売ろう」と言った。

寝太郎は、猫を買って家へ戻った。

そして寝太郎が、「買うち来たばい」と言って、

猫を放すと、ニャオンニャオンと鳴いて、どこかへ逃げてしまった。

また、寝太郎は寝てしまった。

お母さんは、また寝太郎が何日でも寝ていたので、

「寝とっちゃいかん。今度(こんだぁ)、ねずみ買うて来い」と言った。

寝太郎は、また町に出て、

「ねずみ買いましょ。ねずみ買いましょ」と言って、さまよっていた。

すると、どら猫を売った家では、

「この頃、猫買いや来た息子が、ねずみ買いや来たけん、

夕べ罠にかかったとば売ろう」と言って、相談していた。

寝太郎が、その家の前にやって来た。

寝太郎は、そこからねずみを買った。

寝太郎は、ねずみを買って家へ戻った。

「買うて来たばい」と言って、ねずみを寝太郎が放すと、

チュウチュウと鳴いて、どこかへ逃げてしまった。

お母さんは、また寝太郎に、

「また何なっとん、仕入れとこじにゃあ【仕入れて来なければ】。

寝てばっかいおったっちゃ、どんこんならん【どうにもこうにもならない】」

と言った。

寝太郎は、お母さんから金を貰って、再び仕入れに行っていたら、

途中で打ち手の小槌が落ちていた。

寝太郎は、それを拾って家へ持って帰った。

寝太郎が欲しい物の名を言うと、

打ち出の小槌からゴロゴロと、その品物が出てくる。

寝太郎は「こりゃあ、ええ物拾うた。米がなかけん、『米』」」と言った。

すると、米がどんどん出てきた。

寝太郎の家近くには、庄屋どんの家があった。

そこにきれいな娘が住んでおった。

寝太郎は、その娘と結婚したかったので、

「庄屋どんの娘ば、俺の嫁御にもろうてくいろ」と言って、お母さんにせがんだ。

お母さんは、予期もしていなかったので、びっくりしながら、

「いんにゃあ。うちんごと貧乏人に、なんて庄屋どん娘ばやらすねぇ」と、

寝太郎に言った。

寝太郎はお母さんに、

「どうでんこうでん、もろてくれんかい」と言って、頼んだ。

寝太郎は、再び何日でも寝てしまった。

お母さんは困り果ててしまい、そのことをお父さんに訴えた。

お父さんは、我が息子のために庄屋どんの所へ足を運んだ。

お父さんは庄屋どんに、

「娘さんば、うちの息子の嫁にくいてくんさい」と、言って頼んだ。

庄屋どんは、ふざけた調子で、

「やろうだん。やろうだん。あんたん家の二階から、うちん家の二階まで、

金の吊り橋どんかけてくれるなら、娘ば嫁にやろう」と言った。

寝太郎のお父さんは、とてもそんなことができるはずがないと思って、

庄屋どんが言ったように寝太郎に言った。

すると、寝太郎は、

「そんなくりゃあなことなら、たやすかことたい」と言った。

そして寝太郎は、打ち出の小槌を手に取って、

「きれいか家ばたてろ」と言った。

すると、きれいな家が一晩のうちに出来上がった。

寝太郎は、打ち出の小槌を手に取って、

「うちの二階の柱から、庄屋どんの二階の柱さい、金の吊り橋かかれ」と言った。

金の吊り橋が、ザラザラとかかった。

その翌日、寝太郎の両親は、庄屋どんの家へ行った。

庄屋どんは、寝太郎の両親に、

「もう、約束しとったことだから、やりましょう」と言った。

が、庄屋どんは現実に金の吊り橋が出来ようとは夢にも思っていなかった。

とにかく、寝太郎と庄屋どんの娘は、めでたく結婚した。

ある日、嫁は里帰りをした。

庄屋どんは、

「あぎゃん貧乏じゃったとの、金持ちにならしたのう。

どうして、近頃あぎゃんなったじゃろうね」と言って、娘に聞いた。

すると娘は、

「そりゃあもう、『打ち出の小槌』ちゅうてから、何でも思うごと言うて、それを振ると出来(でく)っ。

そいけん、ここへんはかなわん」と、父に言った。

父は、それが欲しくなり、

「そんなら、一晩で良かけん、知らんごと打ち出の小槌ば、家さい借って来い」と、娘に言った。

嫁は家に戻った。

そして、寝太郎に酒を腹いっぱい飲ませた。

寝太郎は、すぐに寝てしまった。

その時に、嫁は打ち出の小槌を持ち出し、里へ行った。

庄屋どんは米倉をたくさん作ろうと思って、

「米倉、米倉、米倉」と叫んだ。

すると、小さい盲がたくさん出て来た。

庄屋どんは困ってしまい、

「ええくそ。もうせんぼう【もうしないよ】」と言った。

ちょうどその時、逃げていたどら猫とねずみが、どこに隠れていたのか、

「なんち。なんち」と言って、出て来た。

庄屋どんが、どうすることもできないほどだった。

そいばっかいばんねんどん。

 

(出典 佐賀の民話2集 P178)

標準語版 TOPへ