唐津市相知町伊岐佐上 能隅 進さん(年齢不詳)

 ある古寺に、欲張りな和尚さんと小僧さんが住んでおった。

ある晩、和尚さんは、

「小僧、早う寝ろ」と言った。

小僧さんは、

今夜だけどうしてそんなことを言われるだろうかと、

不思議に思いながら寝に行った。

和尚さんは、こっそり蜂蜜を入れていた壺(つぼ)を出して、

それを舐め始めた。

小僧さんは、その様子をこっそり隠れて見ていた。

翌朝、和尚さんには法事の使いがあった。

「小僧、朝から行くけんで、留守番をしちょれや。

そいから、阿弥陀様のおらすところだけは、

大切な物の、ひゃあちょとこじゃいけん【入っているところだから】、

開けていかんぞ。ありゃ、毒じゃいけん」と言って、和尚さんは寺を出た。

小僧さんは、自分も舐めたかったので、

和尚さんの留守の間に、

「開けてはいけない」と言われていたが、そこを開けた。

そこには壺が入っていた。

小僧さんは、手を差し込んで舐めてみると、蜂蜜だった。

小僧さんは、その蜂蜜を舐めてしまった。

それから、小僧さんは和尚さんに弁解するために、

硯石を割ってしまった。

その夕方、和尚さんは、

「小僧、今戻ったぞ」と言って、法事から帰って来た。

その夜、和尚さんは蜂蜜を舐めようと思って、

阿弥陀様のところから壺を出した。

が、蜂蜜は空っぽになっていた。

「小僧、小僧。わが、阿弥陀様のところば開けちょろう」

と言って、和尚さんは聞いた。

すると、小僧さんは、

「和尚さん、あんたの行かっしゃられた後、

硯箱ば洗おうで思うて、出しよったりゃ、

硯石ば割ったもんじゃいけんで、

『ありゃ、毒じゃいけん』て、おっしゃたとば、

私は舐めて死のうで、

いくら舐めても死なんもんじゃいけんで、

みんな舐めてしもうた。私は、どうでんこうでん、

死にはずして、どうも悪うございました」と言って、

和尚さんに謝った。
そいばぁっかい【それでおしまい】。

(出典 佐賀の民話2集 P171)

標準語版 TOPへ