唐津市高島 野崎力蔵さん(年齢不詳)

 ある日の朝、

田舎からたくさんの松葉を背負って売りにきた。

「松葉は、いりませんか?」との呼び声を聞くと、

焚きつけるのに困っていた勘右衛門は、

「買おう。裏さん(へ)持って行たちくれんな」と、松葉売りに言った。

松葉売りは、「おおきに」と言った。

松葉売りは、喜んで裏で行こうとしたが、容易に通れるところではなかった。

そこは体が、やっと通れる広さで、背負っていた松葉が、

こっちの柱、あっちの壁にぶつかって、バラバラにこぼれ落ちてしまった。

松葉売りは、苦労して、やっとのことで松葉を裏へ運んだ。

そんな松葉売りの苦労を無視したかのように勘右衛門は、

「そぎゃん【そんなに】たいそうある松葉なら、隣と半分ずつ買うけんな。

隣の人に見せてもらわなきゃならんから、済まんばってん【済まないけれども】、

もう一度、表まで持って行たちくれんな」と、松葉売りに言った。

松葉売りは仕方なく、また松葉を表の方へ運んだ。

勘右衛門は、松葉売りがそれを運び終わったところで、

「ところで、その値段ば聞いとらんが、みんなで幾らかな?」と聞いた。

松葉売りが、その値段を言うと、

「そりゃ、高い。安かなら買うばってんが」と、勘右衛門は言った。

そして、勘右衛門は松葉を買わなかった。

人の良い松葉売りは、

「こげん【こんなに】散らかして、掃除ばしにゃあ」と言って、

散らかした松葉を掃きはじめた。

勘右衛門は親切心を見せかけて、

「いんにゃあ【いいえ】、良かばい。掃除は俺がしとくけん、早う行って商売をせんかい」と、

松葉売りに言った。

松葉売りは、勘右衛門から松葉を買ってもらわなかったが、

掃除をしないで良いと言われたことに感心して、

気持ちばかりの松葉を彼に与えた。

そのため勘右衛門は、何日分かの松葉を得したと言うことさ。

 

(出典 佐賀の民話2集 P231)

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