加平とカラス

唐津市木綿町　宮崎利一さん(年齢不詳)

　むかし、むかし。

あるところに、加平と言う男が住んでいました。

加平は、大変お酒が好きで、いつも畑仕事をしてから、

松の木の下で楽しそうに酒を飲んでいました。

そして、いつものように松の木の下で酒を飲んでいると、

カラスが飛んで来て、その木に止まり、

「カヘイ、カヘイ」と鳴いた。

加平は、

「なんだ！」と怒鳴りました。

すると、カラスは、

「ゴンゴ（五合）カ、ゴンゴカ」と鳴いて、加平をからかったのです。

次の日、加平は、今度は一升の酒を持って行き、

カラスをこらしめてやろうと思い、いつもの松の木の下で酒を飲んでいた。

やはり、カラスは飛んで来て、松の木に止まり、

「カヘイ、カヘイ」と鳴きました。

加平は、

「なんだ！」と怒鳴ると、カラスは、

「ゴンゴカ、ゴンゴカ」と鳴いて、からかいました。

加平は、

「一升ぞ！」と言うと、カラスは、

「オコッタナァ」と鳴きました。

加平は、腹が立ったので、石を拾ってカラスに投げつけました。

すると、カラスはバタバタと羽ばたきをして飛んで行ってしまいました。

仕方なく、加平は、

「どれどれ、もう帰ろう」と、ひとりごと言いながら帰りかけました。

すると、またカラスが飛んで来て、松の木に止まり、

「カヘイ、カヘイ」と鳴きました。

加平は、

「ああ、もう今日は済んだよ。今から帰りかけるところだ」と言うと、

カラスは、

「クワ（鍬）、クワ、クワ」と鳴いたのです。

加平は、ハッと思い出し、

「ああ、お前が言わなかったら、鍬を忘れて帰るはずだった。おおきに【ありがとう】」

と言いました。

それから、加平は鍬をかついで家へ戻りました。

家では鶏が、

「コッコッコ、コッコッコ、コッコッコ」と鳴きながら、餌を食べていました。

加平は鶏に向かって、

「何（なぁ）ーんだ。お前どんは、いつでも餌を狙って。あの畑のカラスを見ろ。

今日、鍬を忘れて帰るはずだったところを、

『クワ(鍬）、クワ』と言うて、教えてくれたぞ」と言いました。

すると鶏は、

「そんなら、トッテクーカ」と鳴きました。

加平は鶏に、

「もう遅い」と言いました。

(出典　佐賀の民話2集 P227)

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