猿と蟹の餅競争 作:花山院路子

猿と蟹の餅競争 作:花山院路子

杵島郡白石町(旧有明町)下牛間田 栗山藤市さん(年齢不詳)

 むかし。

猿どんと蟹どんは、仲良しでした。

しかし、ある日、猿は蟹に、

「餅搗きしゅうじゃなっかぁ【しようじゃないか】。

俺(おら)、餅の穂と拾(ふる)うけん、お前は、赤小豆(あずき)ふるえ」

と言いました。

そして、猿と蟹は、餅の穂と赤小豆を拾って戻って来ました。

猿は、今度は蟹に、

「俺(おら)、臼ば借って来る。お前は、杵ば借って来い」と言い、

猿と蟹は、それぞれ臼と杵を借りて来ました。

しかし、猿は、

「よんごう【曲がった】杵は、餅搗かれん」と言ったので、

蟹は、その杵をそこに置いたまま、杵を借りに行った。

すると、猿は、その間に餅を搗いてしまっていたのです。

そして、猿は餅を袋の中に入れて、

木に登って自分ばかり食べていました。

ちょうどそこへ蟹が、杵を借りて戻って来た。

すると猿は、

「美味かよー(うまいよ)」と蟹に言いました。

「俺(おら)も、いっちょ【1つ】食わせんかにゃあ」

と蟹は言いましが、猿は、

「登って来(け)ぇ。登って来ぇ」と言ったのです。

それで、蟹は、

「登りゃえんけん【登ることが出来ないから】、食わせろ」と言っても、

猿ばかり餅を食べていました。

すると、蟹は猿が、

すぐ人の真似(まね)をすることを知っていたので、

「うちのお爺さんたちゃあ、餅搗いた時は、

すぐ枯れ枝に引っ掛けて食いよったげな」と言いました。

それで、猿は蟹が言ったことを真似して、

すぐに餅を入れた袋を枯れ枝に掛けたのです。

餅の入った袋は、枯れ枝が折れて落ちてしまいました。

蟹は、この時と言わんばかりに袋を穴の中に持って逃げました。

猿は、今度は逆に、

「俺(おら)も、いっちょ食わせんかにゃあ」と言いましたが、蟹は、

「入って来(け)ぇ。入って来ぇ」と言いました。

それで、

「入りゃえん。食わせんかにゃあ。

食わせんなら、俺(おら)、糞(くそ)たいかくっぞ」

と言うと、蟹は、

「たいかくんない、たいかけろ」と言った。

そして、猿は蟹の穴のところで糞をたれかけようとしたら、

蟹は猿の尻を挟みました。

「毛、くるっけん離せ!」と猿は蟹に言ったのです。

それから、蟹のはさみには毛があり、

猿の尻は真っ赤になったと言うことです。

そいばっかい【それでおしまい】。

(出典 佐賀の民話第二集 P211)

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