杵島郡白石町嘉瀬川 筒井タクさん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

ある村に大きな堤があった。

その大きな堤には、大蛇がすんでいた。

その大蛇は毎年ひとりの人間を呑まないと、

堤の水をひっくりかえしてしまった。

そのため村人は困りはて、毎年ひとりの人聞を大蛇に与えていた。

いよいよ今年も大蛇の餌食になる人を決めなければならなかった。

村人は、くじで餌食になる人を決めた。

その結果、村の金持ちの娘さんが、くじに当った。

その村に母親と二人暮しの娘さんが住んでいた。

その娘さんが山にたきぎ取りに行って、

村に下って来たら、村人がみんな泣いていた。

すると、その娘さんは、

「どうしたんですか」と、泣いている村人に聞いた。

村人のひとりが、

「はい。村中で一番の金持ちのひとり娘さんが、今年は堤に立つことになりま

した」

と、泣きながら言った。すると、その娘さんは、

「私も母親がおらなかったらですね、

お嬢さんの身代わりに立ってあげられるけれども」

と、母親のことを思いながら言った。村人のひとりは、

「お母さんは一生みてあげるから」と、その娘さんに言った。

その娘さんは、母親のことを案じなくてよいなら、

自分が身代わりに立ってもよいと思った。そして、

「じゃ、その娘さんの身代わりに、私が立ちましょう」

と言った。村中の者はその身代わりの娘さんに感心した。

特に村中で一番の金持ちの両親はよろこんだ。

身代わりの娘さんは、堤のほとりにある小さな家に行くことになった。

その身代わりの娘さんは、その小さな家にいると、大蛇がやってきた。

大蛇は口を開けて、身代わりの娘さんを呑もうとした。その娘さんは、

「ナムダイセンジョガマ」と、一生懸命にお祈りをしていた。

お祈りをしている娘さんに後光がさした。

その大蛇はびっくりしてその娘さんに寄りつくことができなかった。

後光のさしている娘さんを大蛇は呑むことができなくて、

そのまま天に上ってしまった。

それからは大蛇は堤にすまなくなった。

そのため、人を立てる必要がなくなった。

その村は身代わりの娘さんのために救われたということさ。

(出典 佐賀の民話第一集 P217)

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