杵島郡有明町下牛間田 栗山藤市さん(年齢不詳)
北山の婿さんが初めて嫁さんの実家へ行った。
そこのおかあさんは饅頭を作って食わせてくれた。
今まで食べたこともなかったので、
婿どんは珍らしくもあり、その上、たいへんうまかった。
今晩、嫁に饅頭を作って食わせろと言おうと思って忘れないように、
「饅頭、饅頭、饅頭」と言って、婿は帰っていた。
ところが、帰る途中に小川があった。婿は、
「ピントコショ」と言って、小川を跳ぴ越えた。
今度は、
「ピントコショ、ピントコショ、ピントコショ」と言いながら帰っていった。
婿は家に着くとすぐに、
「かか、ピントコショして食わせやい」と嫁に言った。
嫁は何のことだかわからなかったので、
「『ピントコショ』ちゅうぎ、何かい。
『ピントコショ』て、見たごとも聞いたごともなか」と、婿に言った。すると、
「あいどん【しかし】、おまえの実家で食わせなったぞ」と、婿は言った。
「しかし、『ピントコショ』て、そがんとのあったかい」と、嫁は言った。婿は腹を立てて、
「ピントコショも知らんか」と、ほっぺたをなぐった。
「こんなになるごと叩いて。あぁ、饅頭のごと、コブのできた」と、嫁は言った。
「あぁ、その饅頭、饅頭」と、婿は言った。
(出典 佐賀の民話第一集 P219)