吉野ヶ里町村上三津 城尾善二さん(明17生)

 むかし、むかし。

あるところに両親と娘の三人は、造花を売って暮らしていた。

ある日、お母さんは病気にかかってしまった。

しかし、娘は造花つくりが大変うまくて、江戸でもそのことが評判になり、

暮らしには困らなかった。

今日もいつものようにお父さんと娘は、造花を背負って売り歩いた。

ところが、きれいなあげは蝶(ちょう)がくもの巣にひっかかって、

苦しそうにバタバタと羽ばたきをしていた。

娘は、その苦しそうなあげは蝶を見てかわいそうに思って、

「ああ、お父さん。あすけえ【あすこに】、きれいかあげは蝶がひっかかって、

バタバタしよっとば助けてやらんねえ」と言った。

お父さんは、近くにあった物干ざおを持って来て、

あげは蝶を助けてやろうとしたところが、さおが短くて、くもの巣までとどかなかった。

お父さんは、こんどは娘を自分の肩の上に乗せて、

「さあ、早う、くもの巣から逃がしてやれ」と言った。

娘は、あげは蝶を、くもの巣から逃がしてやることができた。お父さんと娘は、

「よかったねぇ」と言いながら、再び造花を売りに歩いていると、

一匹の犬が吠(ほ)えかがってきた。お父さんと娘は、

「シイー、シイー」と、縄を拾って追っ払っていた。

すると、縄に犬がひっかかり、犬はびっくりして、

「キャン、キャン」と鳴いて、逃げていった。

その鳴き声を聞いた奉行所の役人が駆けつけて来て、

「こら、待て。おまえたちは、犬に石を投げたなぁ。『犬に石を投げてはいかん』と、

お艦(ふれ)が出ているだろうがぁ」と、親子に言った。

するとお父さんは、

「いいえ。石は投げとりませんばい。犬が吠えてきたけん、

『シイー、シイー』て、追っ払っていたら、犬が縄にひっかかって、

びっくいして鳴いて逃げましたたい【ですよ】」と、役人に言った。

しかし、役人はそのことを信用せずに、お父さんと娘に縄をかけて、奉行所に連れて行った。

お父さんと娘は、家に病気で休んでいるお母さんのことが気がかりでならなかった。

そのことをお父さんは、奉行所の役人に訴えた。

すると役人は、

「よぅーし。それじゃ、ここに百合の花がある。その中に一本だけが造花だ。

おまえたちが、その造花を当てきったら無罪にしてやる」という、難問を出した。

お父さんも娘も、どれが造花だろうかと困り果てていた。

ちょうどその時、どこからともなく一匹のあげは蝶が飛んできて、

八本目の百合の花だけには、とまらず次の花にとまった。それを見た娘は、

「はっ」と感じて、

「八本目が造花です」と言った。役人はびっくりしながら、

「よぅーし。もう行ってよい」と、親子に言った。

お父さんと娘に、くもの巣にひっかかった、あげは蝶が恩返しをしに来てくれたとさ。

無罪になったお父さんと娘は、急いで病気のお母さんの待っている家へ帰って行った。

そいばぁっきゃあ。

(出典 佐賀の民話第二集 P49)

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