三田川町田手村 東条三郎さん(明33生)
河童(かわうそ)の、こりゃ私の所(とこ)の事実、
そう言う風にしとったんですがね。
その、便所の中(なき)ゃあ入ったらちゅう。
そしてその、侍が斬ろうと思って、便所におって。
そうしたところが、その、便所でこう、尻ば、
毛の付いた尻のこう、ないしとんもんだから、ポッと、斬ったです。
そうしたところが、斬ってしもうてなんしたら、
その翌晩(あくるばん)ぐらいに、
「その、実は、昨日はこう言うことして申しわけなかったけど、
一つそいば返してくれんですか」て、腕を貰いに行ったちゅう。
ところが、
「こんな物、お前(まい)、斬ってしまった物を元に返すことのできるか」ち。
「はい。それはもう、私の方で、返して下さるなら教えましょう」ち。
「うん。返してやるから教(おそ)えんか」ち。
言うたんで、ないしたところが、その河童が、
「秋の七草のうちの、何と何との草を取って、そしてそれを蒸し焼きにして。
そして、その、付けるならばすぐ治る」て、言うんで、
それ、伝説的にその薬の何を教えて行ったんですね。
そして、そのとおりにして。
そして、そこでどんどん、どんどん薬を作って。
そしてもう、
「お前(まい)さんの、あいしとる薬ちゅうのは、刀傷やら切傷なら」ち言うて、
大抵、売薬として売れとったんですよ、ねぇ。
(出典 未発刊)