吉野ヶ里坂本 森田官市さん(明24生)

 横道孫兵衛という人は

目達原(めたばる)(神埼郡三田川町)に住んでいたとか。

ある家に横道孫兵衛さんがやって来て、

「早う、鴨(かも)ン汁ば吸わせろ。早う鴨ン汁ば吸わせろ」と言った。

ある家の姉さんが、

「はい、はい」と言って、鴨の汁を横道孫兵衛に差し出した。

しかし、その中には大根ばかり入っていた。

「旦那(だんな)さん、私どんがところにゃ、鴨がほんにおっですよ【おりますよ】。」

「そうか。そがん【そんなに】鴨がおっとかぁ。」

「はい。とてもおっですよ。来てみんさい。」

鴨の汁を出してくれたところの旦那は、鉄砲かついで、

横道孫兵衛の住んでいるところに一緒に行った。旦那は、

「どこにおるか」と、横道孫兵衛に言った。

「ほら、そこにいる。そこにいる」と、

横道孫兵衛は且那に、畑の大根を指さしながら言った。

「こりゃあ、大根じゃないか」

「『大根』ですか、こりゃあ。あんたのところでは、鴨ン汁といって、

これを私に食べさせてもらったから、これを鴨ン汁と思うとったぁ【思っていました】」

「ばか。大根じゃなか」

「私にゃ、『大根』ち、知らんもんじゃったもんで【知らなかったもんだから】、

『鴨ン汁』というて、あんたのところの姉さんが言うたけんで、こいが鴨ン汁なら、

家にたくさんあるけん、そいであんたば連れて来た」

と、且那に横道孫兵衛が言って、がっかりさせたげな。

〔笑話その他〕

(出典 佐賀の民話第二集 P54)

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