吉野ヶ里町小川内 築地カネさん(明30生)

 ある日、横道孫兵衛がある家の門の前で桶をかぶって寝ていた。

それとは知らずに、ある人たちがその前で長者になる話をしていた。

ところが、三日目におばあさんが、その側を通りかかった。横道孫兵衛は、

「おばあさん、この桶をのげてくんしゃい【ください】」と言った。

おばあさんは桶を取ってやり、

「長者にならんやったかい」と、横道孫兵衛に言った。

すると横道孫兵衛は、

「そんなら、もう死んだがまし」と、おばあさんに言った。

そして、おばあさんに横道孫兵衛は、

「おばあさん、『孫兵衛は死んだ』て、言うてくんしゃい」

と言って、家の二階に身を隠した。

おばあさんは、横道孫兵衛から言われたとおりに近所の人たちに、

「孫兵衛が死んだ。孫兵衛が死んだ」と、言いふらした。

すると近所の人たちは、

「孫兵衛さんは死んじゃったかぁ。ほんにかわいそうに。香典をどうぞ」

と、お悔みを言って香典をあげた。

おばあさんは孫兵衛が死んでいないことを知っているので、

香典をいただくわけにはいかなかったから、

「ほんに、もうよかばんたぁ【よいですよ】。そんなのはいらん」と言った。

二階から横道孫兵衛は、遠慮しているおばあさんに、

「そがん言わじぃ、取っとけやぁーい【取っときなさい】。取っとけやぁーい」

と言った。

おばあさんは、仕方なしに香典をいただいたということさ。

〔大成 五五八 借金取りの香典AT一六五四)〕

(出典 佐賀の民話第二集「香典もらえ(横道孫兵衛話1)」P52)

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