神埼郡吉野ヶ里町萩原 小宮ヤエ子さん(大8生)

 むかし。

和尚さんの何時(いつ)まっでん部屋から部屋さい行たて、

自分の部屋さい行たていっちょん帰って来(き)んさらん。

行くぎにゃ、こそっと、どがんじゃい隠したごとしんさった。

そいぎい、こやおかしかねえ、と思うて、行きんさったぎにゃあ、

何じゃい目えかかったげな。

「こいは何ですかあ」て、言うたら、

「こや、あの、毒の入いっとっ」て、言んさったろう。

そいぎい、おんさらん〔おられない〕時、行たてみたら舐(な)めてみたぎい、

ほんにおいしかったて。そいぎぃ、

「ちょっと舐めてみゅうかあ」ち言うて、

あがんと小僧さん達の何人か舐めんさったぎい、

のうなって〔なくなって〕しもうたて。

「そやあ、こや、おおごと〔たいへん〕」と言うて、

今度(こんだ)あの、

「花瓶なもう、怒(おこ)らるっけん」ち言うて、

花瓶ばわんざと(わざと)割って。

そして、その、和尚さんの来なった時ゃ、しくしく泣きよったて。

誰でん全部(しっきゃ)あ。

そいぎい、「何したかあ」ち言(ゆ)うぎにゃ、

「花瓶割ったけん、毒ば飲んで死のうで思うてしたぎにゃあ、死なん。

まあーだ死なん」ち言うて、泣きないよったところば、

ちょっと聞いたことあんね。

〔大成 五三二 飴は毒(AT一三一三)〕

(出典 吉野ヶ里の民話 P168)

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