神埼郡吉野ヶ里町立野 福島康夫さん(大6生)

 昔や捨てよったでしょ。

七十位(ぐり)ゃあなればですね。

そいであの、兄弟二人で、あの、駕籠(かご)に入れて姥捨山に、

あの、連れて行きよってね。

その時に、お婆さんがずーっとその、行く途中に、

あの、笹の葉か何(なん)かをずーっと折ってですね、

行くもんじゃから、二人がその、

「お婆さん、どうしてそんなことするですか」と言うて、

尋ねたところが、お婆さんが曰くですね、

「お前たちが、こういう姥捨山の険しい所に、自分をその、

連れて行ってくれとるんじゃから、帰りにその、当然道に迷うじゃろう。

そいで、道に迷わんようにね、こうしてその、折っているんだ」と、

言うてその、お婆さんが答えたち言うわけですよ。

そしてその、いよいよその姥捨山に着いてみたところが、

もう白骨になってですね、あっちこっちに散らばっておるもんだから、

その二人は、

「もう、どうせ婆(ばば)さんもここに置いたならば、

もうどうせこういうふうに白骨になってですね、死ぬだろう」と、

言うことで、そこで二人が話し合ってですね、

「とにかく、もういっちょ〔一度〕

お婆さんは連れて帰ろうじゃなか〔ないか〕」と。

そして、お前(まい)とその、その当時、食料が足らんやったでしょうね。

そいで、殿さんも結局もう、七十になったら捨てにゃあいかんと、

言うごたっ触れが出て、やっぱいその姥捨山に捨てよったわけでょ。

そいで、二人は話し合って何とか殿さんに見つからないように、

お婆さん連れて来(く)っ時、見たところ血だらけになっとっですね、

お婆さんが笹の葉とか何とか折っとるもんだから。

そいで、二人がまた、思い直して、婆さんを連れて帰るわけですね。

そして、自分の家(うち)の押入れか何かに隠して。

そして、兄弟二人がその、自分たちが食べるご飯をね、

減(へ)ずって、そして、お婆さんに食べさせよったわけでしょ。

そうしたところが、殿さんから結局その、お触れが出て、あの、

「灰で縄を絢って来たら、褒美をやる」と、

言うようなお触れか何か出たんでしょ。

そいで、結局その、誰でもそういうことでけんもんだから、

「お婆さんにいっちょ聞いてみゅうじゃっかあ」と言(ゆ)うて、

押入れに入れているお婆さんに、

「お婆さん、ぎゃんして殿様から、『灰で縄を絢(の)うて来い』

と言うふうにその、言ってきとると。

『それに解答を与えた者にはね、宝もある』と、言う話だが、

お婆さん、教えんかねえ」と。そいぎい、お婆さんが、

「そやあ、易いことじゃ」と。

「縄を絢(な)ってね。

そして、灰にすれば、そいが飛ばないようにじっと持って行けば、

灰で縄を絢ったあとが残る」ということで、その殿に献上するわけですね。

そして、その人が褒美を貰うわけですね。

今度は結局その、

「クリクリクリその、曲がった筒にその、糸を通して」と言う、

お触れが回るわけですね。

また、それもその、褒美をやると。それも結局、

隣のお殿様か何かが、やっぽい仲が悪かったんでしょ。

そういう難問題をつけよったんですね。

それをその、解ききるような頭のいい殿様であったら、

こりゃもう、攻めて行かれんばいと、言うようなことやったでしょうね。

そいで、その殿様が、お触れを出して皆の知恵を借りよったわけですね。

そいでまた、そういうお触れが出たもんじゃいから、

「また、どがん〔どのように〕したらよかろうか」と、

言うことでお婆さんに聞きに行ったわけですね。

そいぎい、お婆さんが、

「そりゃちょつと難しいけれども、お前(まい)、できるかできないか、

わかるかわからんけれども、俺が言(ゆ)うようにやってみんか」と、

言うことですね、蟻(あり)ですか、こっちに蟻を置いとって、

そして、こっちに蜜を置くわけですよ。

そして、蟻がずっと来るわけですね。

蟻の尻尾に紐か何かつけとって、そして、こうして通してやったと。

そいで、結局、難問題が二つ解けたけんね。

そいで隣の王様か何かから攻めて来られずにすんだと、

言うことで、その殿様が、そこの息子を呼ぶわけですね。

「君はその、ああいう難問題をその、二つも解いてくれて、

えぇ、隣の王様から攻めて来てもらわずによかった」と言うて、

非常に宝物をくれて喜ぶわけですね。そうしたところが、結局その、

「お前の望みどおりしてやるから、何かその、ある物を言え」と、

言うことを殿様が言うわけでしょう。そいで、

「実は、お殿様には悪かったけれども、実のお母さんをその、

姥捨山に捨てぎゃ行きよつたところが、お婆さんがその、

『自分の体はもうどうなってもいいけれど、

お前たちが帰るのは二の舞いを送ってはいかん』と言うて、

そういうふうに情けをかけられたからね、

隠れて自分たちは押入れに未だに入れて、お婆さんを養っている」と、

言うことを言ったと、言うことで、その殿様は、

「そりゃもう、年寄りは捨てちゃいかん」と、言うことで、

結局その、今まで捨てよった姥捨山ですね、

もう老婆は捨てんようになったと、

いうことをちょつと聞きましたけれど。

そいまあっきゃたんたあ。

〔大成 五二三A 親棄山(AT九八一)〕

(出典 吉野ヶ里の民話 P160)

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