神埼郡吉野ヶ里町小川内 武広 勇さん(明34生)

 あるところにですね、

非常にあの、黍(そば)食い平太という若者がおったそうです。

それがですね、黍を丼(どんぶり)で十五杯位(ぐらい)食わなきゃ、

承知しないという、そんなにその、黍の好きな若者やったと。

そして、ある日、黍食い平太がですね、

賭けをしたそうです、黍食いの賭けを。

「平太、お前は何杯食うか」と、言うたところが、

普通十五杯じゃけれども、ちょつとヤマをかけて、

「二十五杯食べよう」と、言(ゆ)うたところで、言うたそうです。

そいで、賭けた人が幾ら平太でも、黍の丼二十五杯は無理だろうと、

こう思うとったそうです。

平太は気が気じゃなかけん、何とかして、

黍(そば)の食える方法がないのかというて、

始終考えておったそうです。

ところがその、黍食い日にちが、ちょうど明日ということ迫ったわけ。

そいじゃ、ひとつ薪(たきぎ)を今日は取って来ようかと思って

山の中に薪取り、平太さんが行った。

ちょうどその、平太さんの前に大きな蛇がですね、

鼠(ねずみ)を呑みよったそうです。

そいで、一匹ぺロリと呑んだそうですね。

そいから、しばらく平太さんがそれを見ておると、

また二匹もペロリと食べて、ちょうど十匹食べたそうです。

そうしたら、蛇のお腹がこんなに膨(ふく)れたそうです。

大きく膨れたち。

「ああ、やれやれ。こりゃあもう、俺もあの蛇には勝たないそと。

ああいう小さな腹をしとって、そうして、あいだけの鼠を食うということは、

どういう腹を持っているだろうか」と。

そいで、じいーっと腹を見よったところがですね、

その蛇がゴッソゴッソ向こうの方に行って向こうの方に草があったそうですね。

その草をこの、ペロペロペロペロ食いかけたそうです。

そいで、じいーっとしばらく見ておるというとですね、

その草を食べたかと同時に腹が、ずーっと小さくなってくる。

ようーし、こりゃあもう、しめたと。

あの草をひとつ、明日の賭けに持って行って、

黍を二十五杯、腹いっぱいもう、詰めてからあの草を食べてみよう。

そうしたら腹がべっそりとなるだろうと、いうところで、

平太さんが、ちょようど明くる日迫ったもんですから、行ったそうです。

そして、たくさん黍を用意してあった。

ずーっと並べて、二十五杯並べてあった。

それを片っ端から、ドンドン、ドンドン食べたそうですね。

そして、それは覚悟の前もんですからね、一所懸命なって、

もう喉までくるようになって二十五杯食べた。

そうして、その草を家に帰ってから、こっそーいと出して、

ドンドン、ドンドン平太さんが食べたち言う。

そうして、そのままどっかい〔どっしり〕と座ってですね、

そうして、腹を減らそうと思って、じいーっと、目をつぶっとったそうです。

そうしたら、明くる朝になっても、どうしても平太さんが起きらんち言うですね。

そいで、賭けた人がですね、こりゃ不思議で、

今日は黍食うてから、ちょっと具合悪いかなあと思って、

戸を開けて行たち言うもん。

ところがですね、山盛りその、畳の上座っとったち言う。

そいで、平太さんな全部その溶けてしもうとったち言う。

黍は溶けずに平太が溶けたち言うですね。

その草を食べて。

そいから先はばっきゃあ。

〔大成 四五二 とろかし草(cf.AT六一二)〕

(出典 吉野ヶ里の民話 P143)

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