神埼郡吉野ヶ里町立野 福島康夫さん(大6生)

 結局その、宿屋に泊まったわけですね、爺さんが。

そうしたところが、その爺さんがその、

昔ですから、たくさん金を持っとったでしょう。

もう見ればわかりますからね、宿屋に。そうしたところが、その宿屋の主人が、

「あの人、金ばどつさい〔たくさん〕持っとじやあ。

そうすっぎと〔そうしたら〕、茗荷(みょうが)を食えば忘れると。

そうすっと、あの、爺さんな結局その、金をたくさん持っとろうごたっから、

『茗荷ばどっさい食わせろ』て。

そうすっぎとにゃ、あの金は忘れて行くに間違いなかけん」と、

言うことで宿屋の女中は、ご馳走して食わせるわけですね。

そうしたところが、明くる朝なって、その、

「おんじさん、お世話になりました」て、まあ、帰らすわけですね。

「ほーら、あれだけ夜(よう)べがっぽい〔たくさん〕食わせたけんが、方のあの、

鞄(かばん)な忘れとらすじゃあ〔忘れてる〕、ありゃあ、ありゃあ。

ちょっと見て来てんのう」て言(ゆ)うて、

行って見とったところが、鞄はなかですもんね。

「わりゃあ、鞄はなかやっかあ。忘れとらっさんじゃあ〔忘れてないよ〕」ち。

「何(なん)か忘れた物は、なかかあー」て、主人が言うたところがですね、

「ありゃ、宿賃ば忘れとっ」て。

宿賃ばやつ(やるのを)と忘れてね、行っとらしたと。

そういうような話を、ちょつと聞いたことありますけどねえ。

そいけん、わが欲がね、かえって仇になったち言うわけですね。

ご馳走して食わせて宿賃忘れて行たとったと。

〔大成 三九二 茗荷女房〕

(出典 吉野ヶ里の民話 P140)

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