神崎郡吉野ヶ里町立野 福島康夫さん(大6生)

 ある、お祝儀にふうけ〔馬鹿〕者が おったわけですね。

そいでその、ふうけ者じゃったばってん、そのふうけ者がですね、

地主さんの息子であったわけですね。

そいでその、地主さんの息子が嫁さん貰うごとになったわけです。

そいでその、その頃やっぱいお祝儀の時にゃ、

高級料理でアゲマキの出(で)よったんでしょうね。

そいでその、やっぱい嫁さんに貰う時にはその、

丁稚(でっち)よんとか何(なん)とか、

親戚とかついて行くわけですね、向こうさい。

そいでその、こいが〔息子が〕

どがんことすっこっちゃいわからんけんが、その、

「こいが、すっごとお前(おまい)たちゃしてくれにゃでけんばい〔いかんよ〕

と言うてその、親父さんがですね、付き添いに行たものにその、出発する前に

言うとらした〔言っていた〕とでしょう。

そいでその、必ずこりゃあ、アゲマキの出っけん(ずっけん)ねぇ、

「褌(へこ)〔アゲマキ貝の中身の黒色のふちどり。

煮ると、はずれるので食べるときは除く〕ば取ってから

アゲマキは食わんばでけんじゃあ」て、言うてその、

親父さんの息子に言うとらしたち言うわけたんたあ。

そいから、ああ、アゲマキの出(ず)んない、

こりゃあ、褌取って食わにゃあ、と思うとったんでしょ。

そこんとこ、案の定その、向こうの嫁さん方(がた)行たところが、

やっぱいアゲマキがでたわけですね。

そいでもう、親父さんから言われたように、

わが、はめとった、褌(へこ)ばとって、

そして、ふけぇ〔ここに〕入れてですね、

食べかけたち言うわけたんたあ。

そうして、誰(だい)でんその、こうして見よったら

その婿さんが褌取っともんじゃけん、

やっぱい、褌取らんばいけんまいと思うて、皆がですね、取ったて。

そして、その、食べたち言うわけですね。

そいけん、その縁談は破談にならずにですね、

あはあー、あっこの所の部落の家風ち言うか、

あぎゃんと〔あんなの〕はやっぱいアゲマキ食う時ゃ、

褌取って食わにゃあいかんばいにゃあ、てですね、

皆が同情ち言うか、そいう風習じゃろうと、

いうことでですね破談にならなかったということ、聞きよったばんたあ

〔大成 315 蟹の褌(cf.AT一三三九)〕 類話

(出典 吉野ヶ里の民話 P123)

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