神埼郡吉野ヶ里町辛上 荒木キクさん(明37生)

 嫁くさんの姉(あんね)さんに行たといなったっちやん。

姉さんにくさんたあ、下女奉公しといなったんたあ。

そしてもう、飯粒ばずっと、旅笥(しょうけ)寄せてなたあ、

飯粒の落ちりゃあ、ひとつでん滴(す)たらんごと、旅笥に入れて、

乾し飯(いい)にしないよったてっちゃん。

そしたぎい、わが行たてからずっと、しないよったぎぃ、

帰っ時ゃもうずっと、一俵もなりごと乾っしいの溜っごたっしなったて。

溜めといなったて。

そうしたけんが、ちょっと、昔は奉公てなたあ、しないよったもんじゃい、

「帰っけんが」ち、言(ゆ)うごとなったちて。

そしたけんが、もう、帰らやんじゃいけん、て、言うごとなってから、

ほら、お金でずっと、しよったろうがなたあ。

雇いなったかんたあ。そいもんじゃいその、

お金で雇いよったもんじゃい、お金ば親方さんがやらんもんじゃいなたあ、

「お金やうよいか〔やるより〕、おとん〔お前〕の何じゃい望みのあんなら、

望み物ばしてやろうばってん」ちて言うて、

親方さんの言いなったわけたんたあ。そしたら、

「『望み物』ちゃあ、なかばってん、何でん他にゃなかばってんが、

四つ足堂ばいっちょ〔ひとつ〕建てちくれんかんたあ」ちて、言いなったて。

そいもんじゃい、親方さんの四つ足堂ば〔建ててもらった〕

建てっくいなったもようたんたあ。

「あいくらいでよかかん〔よいねぇ〕」ちて、

わが家(うち)で賄(まか)にゃあしないよっところで言いなったけん、

「行たてんやい〔行ってみなさい〕。あのくらいでよかこっちゃい」

ち言(ゆ)うて、行たてなたあ。

そしてちょっと、檸(たすき)かけながら、立ちなったぎにゃあもう、

お地蔵さんになっといなったち、いう話たんたあ。

そのないくさんたあ〔そのねぇ〕、お地蔵さんになってしまいんさったて。

そいけん、飯粒でん捨てっこなんて〔捨ててはいけない〕、

飯粒ば大事にすっこと。

〔本格昔話その他〕

(出典 吉野ヶ里の民話 P116)

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