神埼郡吉野ヶ里町在川 中島テルヨさん(明38生)

 子供たちを置いて出て行く時に、

「あそこいらが、こう山姥のおっけんが、

その山姥の来っ時は戸ば絶対お母(か)さんの来んまで戸を開くっこたなんぞ」

〔開けちゃだめだぞ〕山姥がお母さんの振りばして、

「トントン」ちて。そしたら、

「お母さんなら手ば見せんしゃい」ち言(ゆ)うて、

手ばすき間から入れたところが、

毛むくじゃらのくうした〔たいそうな〕手やったて。

そいけんが、

「ああ、お前は山姥やっかあ。お母さんじゃなかやっかあ」ち言うて。

「お母さんの手はどがんしとっかあ」ち、言うたら、

子供やいけん正直に、

「お母さんの手は、スベスベしとっ」ち。

そして、今度は自分の毛をこうして剃り取って、何か塗ってきれいにして、

「帰ったぞう」ちて、言(ゆ)うけん、

「お母(か)さんじゃろうかあ」ち、言うて。

今度はきれいな手をしとっけん、今度お母さんかと思って、こう開けたら、

「ワァー」と山姥が入って来て、そいでびっくりして、

そのね、娘さんと息子さんと二人やったけん、一所懸命逃げて、

こう、井戸の上なんかに初め逃げとったやろう。

そうして、山姥の映っとって、なんとかねぇ。

そして、そいでもう、下の降りとっと〔下に降りていると〕思うて、

山姥が下に降りたけん、そい幸いと思いよったら、

また、上がって来て水ん中に入っとらんやったけん、

影だけということがわかって、上におったけん、

もういっちょ逃げ場のなかったけん、神様にお祈りして、

金の鎖を下ろしてもらって。

そして、一所懸命、姉弟二人(ふちゃい)、

上がって行きよったら山姥が後ろから追うと思うて、

自分も神様にお願いしたばってん、やっぱい悪かったけん、

神様が腐った金の鎖を下ろして、

そして、それに上がって行きよったら、金の鎖がブツッと切れて、

そして、下に落ちたところが、花盛りの所に落ちて、

その神様の力で山姥がべったりなったち。

そいばっきゃ[それでおしまい]。

〔大成 二四五 天道さんの金の鎖 (AT一二三、三三三、一一八〇)〕

(出典 吉野ヶ里の民話 P103)

標準語版 TOPへ