神埼郡吉野ヶ里町上三津 城尾善二さん(明17生)

 竹子と梅子と姉妹二人がおった。

お父(とっ)さんは商人であって、二番お母(か)さんで。

そうして、この竹子とその梅子は娘二人は、

先(せん)の子供であって、お父さんが商用のために、

京に出て行かれる自分であって、

「子供だけは、よう見てくれ」と、頼んで行かれとっところに、

そん時なた、姉妹二人がおみやげをお父さんに注文しとっですもんなた。

鏡とか、何(なん)とか。

そうして、今度(こんだ)あ、京に行たておられる時分に、

娘二人は非常にもう、お母さんからいじめられて。

そいぎい、竹子に風呂をたてさせて。

そうして、言わばもう、笊の破れた笊で、

「水を汲め。風呂に」

そいぎい、竹子は、

「『破れた笊で水ば汲め』て、とても風呂に溜りゃあせん」ち。

その時分に坊さんが門に立って、

娘さんが、しょんぼりしとるもんだから、事情を聞いてみれば、

「お母さんから、この笊で『風呂水を汲んでたてろ』ち、言われておっ。

この笊で水を幾ら汲んだっちゃ、水は溜らん」

「そうか。そいじゃ、自分の衣の裾(すそ)を少しやろう。

衣の裾をちぎって笊にすけて〔敷いて〕、そうして、そいで汲むぎ溜っ」ち、

その坊さんに衣の裾を貰うて、水を汲んで風呂をたてた。

そして、今度あ風呂を沸すだんになって、沸しよったところが、

沸いとろうという時分に、ちょうどお母さんが来て、

「風呂をみてみなさい」

「ちょうどよか加減に沸いとっ」ち。

「まいっとき〔もうしばらく〕、たてなさい」ち、焚かせて。

そうして、その熱湯の中に子供を押し込んで、竹子を殺して。

そうして、何(なに)知らん顔して、自分の裏の、

大体、竹の林やったもんじゃい、埋めたところにちょうど竹が出てきたち。

そいぎい、今度(こんだ)あ、

ある日のこと、その虚無僧(こむそう)さんが尺八を吹いて来た。

そうして、梅子がお米をやったいないたいしよっ時、

裏の竹を虚無僧さんが見とっ。

ああ、あの竹は尺八作んないほんによか尺八がでくっと思うて。

そいぎい、そこのお母(か)さんに相談をして。

そいぎぃ、その時は売ろうちゅうごたっふうで、

竹を、竹の子が墓から出とっ竹ば売っとらす。

そうして今度あ、虚無僧さんが尺八の長さに切って作らすぎぃ、

「こいから東辺(にき)は吹いてくださるな」ち、そのお母さんが言わす。

「不思議なことば言うばい」と。

そいぎい、虚無僧さんはいちだん吹こうこたっ。

そいぎぃ、虚無僧さんは尺八作って、

どういうわけで、あぎやん言いよらしたこっちゃい、

東に行たて吹いてみんさったところが、今度あ、尺八の音が聞こえるち。

そいぎぃ、尺八の音がどういうて鳴っかち言うぎぃ、

京の硯はなんになる

京の鏡はなんになる

ち、ふうで聞えて。

そいぎぃ、こりゃ、不思議なことばい〔ことだと〕と思うて、

商(あきな)いは、どうやきゃあろう〔中途半端〕で帰って来らすたい。

そいぎぃ、そのお母さんに、

「娘は何処(どこ)さい行ったとかい」

「ああ、ちょつと他所(よそ)さい行たとっ」

そいばってんが、帰って来(こ)んないと思いよっぎぃ、

しまいに白状さっさい。裏、そこに埋けとっとば。

そいぎぃ、もう親父どんが、かえって腹きゃあて〔怒って〕

墓を掘ってみらすたい。

そいぎい、掘ってみさすぎぃ、今度(こんだ)あそりぁ、不思議じゃろうだんたあ。

しょ〔前〕てのお母さんが木の株になっとらす。

そして、竹子が上、穴掘ったところにちょうど死なんごと、

しょてのお母さんが木の株になっとらす。

そいぎい、掘り返してみたところが、竹子がまだ生きとった。

そういうふうな話、ちょっとあったんたあ。

二番嬶(がく)さんのいじめらしたという話がなたあ。

〔大成 二一七 継子と笛 (AT七八〇AⅡ)〕

(出典 吉野ヶ里の民話 P95)

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