吉野ヶ里町小川内 築地カネさん(明37生)

 ちょっと商人(あきんど)の泊いなったら、その、

そこの二番お母(か)さんやっもん。そしたらその、

「風呂に入んさい」てやっけん、

風呂に入いや行たとんさる留守、

お母さんの魚売いさんの銭(ぜに)ば盗(と)っといなったて。

そいぎとは、風呂入って来てから見なったぎぃ、

金入れのなかもんじゃい、聞きなったら、

「そりゃあ、そんならこの娘が盗っとろう」ち言(ゆ)うて、

わが盗ってあわせなったけん、お父(とっ)たんの、

「そがなあ〔そんなあ〕娘なら、こりゃあ、握い飯ば背負(かる)わせて、

向こうのみかん山ゃあ、やらやこて〔やらなければ〕」ちてから、やいなった。

そしたら、

「片手ば切って、みかん山ゃあ放(ほ)いやれ」ちてから、言いなったけんが、

片腕切って、みかん山ゃあ、やいなったて。

そうしたら、みかんば片手じゃちぎられん〔取れない〕もんじゃけん、

口先で娘が食(き)いよったて。

そうしたら、隣(とない)のお父たんの、

「家(うち)のみかん山ゃあ、片手持たじ娘のみかんちぎって食いよっ。

ありゃあ、えぇ〔よい〕娘ないば、

家さい連れて来て守(も)いないどんさせやこて」ち言(ゆ)うて、

連れて来なったて。

そうしたら、片手なかもんじゃい、守りゃあさせられんばってん、

守いさせないよったて。

子供ば背負(かる)わせて。

そうしたら、塩つけ握い飯じやったもんじゃ、

塩ん辛かもんじゃいなたあ、川さいその娘が水飲みゃ行たて。

そうしたところが、川(かや)あ、こうして、

つっくるぶうて〔うつむいて〕飲もうでしよったところが、

背負うとっやや〔赤ん坊〕さんが落ちろうでしたもんじゃい、

そく〔急に〕、思わず、こう、手を出したて。

そした時、お大師様のその手はついでくんさったやろう、ち言うて言う話。

そいで、終いたんたあ、もう。

そいけん、なんでも悪い、年とっぎい、悪か、よか目はみられん、

ち言うところば話を聞かせないよった。

悪かことはすっぎならんち言う話じゃったんたあ。

〔大成 二〇八 手無し娘 (AT七〇六)〕

(出典 吉野ヶ里の民話 P85)

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