神埼郡東脊振村小川内 築地カネさん(明37生)

 むかし、むかし。

あるところにお父さんと、継母と、娘の3人が暮らしていた。

ある夕暮れ、そこへ一人の魚売りさんが泊った。

継母は魚売りさんに、

「風呂に入んさい」と言った。

魚売りさんが風呂にはいっているうちに、継母はその人の財布を盗んだ。

魚売りさんは、風呂からあがってみると財布のないことに気づいた。

魚売りさんは財布のことを継母に聞いた。

「そりゃあ、うちの娘が盗んだろう」と、継母は魚売りさんに言った。

そのことを知ったお父さんは、

「そんな娘なら、片手を切って、にぎり飯を持たせて、向こうのみかん山にやらやこて」

と言った。

片手を切られたかわいそうな娘は、みかん山へ追い出されてしまった。

片手の娘は、にぎり飯を食べてしまうと、空腹を覚えた。

娘は、片手でみかんを、ちぎることができなくて、口先でそれを食べていた。

みかん山の親父さんが、その様子を見て、

「うちのみかん山には、片手持たない娘がみかんを口先で食べよっ。

家へ連れて来て、子守りないどん【なりとも】させやこて」と、家族の人に言った。

家族の人は、そのことに賛成した。

親父さんは、片手の娘を、みかん山から家へ連れて来た。

そして、その娘に赤ちゃんを背負わせて、子守りをさせた。

ある日、いつものように片手の娘は子守をしていた。

その娘は水を飲みたくなったので、川へ行った。

娘は赤ちゃんを背負ったまま、前かがみになって水を飲もうとしたら、

赤ちゃんが落ちそうになり、思わず手を出した。

その時、お大師さまが切られた手をつないでくださった。

そいばぁっきゃあ【それでおしまい】。

〔大成 二〇八 手無し娘 (AT七〇六)〕

(出典 佐賀の民話第二集 P47)

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