神埼郡吉野ヶ里町上三津 城尾善二さん(明17生)

 師走の二十九日の日に、

兄弟二人、金持ちの兄貴さんと貧乏な弟さんがおって。

金持ちの兄さん方に、この弟の貧乏人が

師走の二十九日に何か借りに行ったでしょう。

言わば餅なっとん〔ぐらい〕掲(つ)こうと思うて。

そうしたところが、その兄貴さんの言うことにゃ、

「今、お前は師走二十九日が一年に一遍ずつあっこた〔あることを〕知らんかあ」

ち言(ゆ)うわけで。

そいもんじゃけんその、そういうふうで、はねつけられて帰っところじゃなか。

そいぎぃ、その弟の人は、またそのよか人から話を聞いて饅頭を作って、

弁当を腰に下げて、ちょうど他所(よそ)さんへ行きよったところが、

せめて子供になっとん〔でも〕、餅なっとん食べさせたかと思うて、

行きょつとこれぇ、ちょうど小人が洞窟の中にスダの木の長いやつを

一本ずつ運んで行きよって。

それをその、自分が弁当を下げて、まあ、何処(どこ)さいなっとん、

何(なん)なんとん買って、今晩もう、

明日明後日(あすあさって)お正月とこれぇ、

子供になっとん、何なっとんよか物(もん)食べさせんばと思って、

行きよつとこれぇ、ちょうど小人どん〔たち〕がそういうふうに、

スダのこぎゃん長(なん)かとば一本ずつ、他にゃ持って行きよらん。

洞窟の中さい。

そいぎぃ、こうして立って見よっところが、

「お前たちは、たった一本ずつしか持って行ききらん〔行けない〕か。

持って行きよらんか」ち言(ゆ)うて。

「あんた、腰に下げとっとは何(なん)か」

「こりゃねぇ、お饅頭」

「『お饅頭』、そん時ゃ、僕たちが、ほんによか宝ば持っとっけんが、

いっちょ〔ひとつ〕おじさん、その饅頭と換(かゆ)うか」

「よか宝、どげな宝持っとっか」ち言うたところが、

「そりゃ、ほんによか宝」て。「もう、石臼持っとっ」て。

「はあ、そいじゃ、換えてもよか」て。

「おじさん、この石臼は言うこと聞く」て。

「もう、右さい回して『米出ろ。米出ろ』ち

言うぎぃ、ジョウジョウ石臼から出てくる。

『砂糖出ろ。砂糖出ろ』ち回すぎぃ、また砂糖が出てくる。

そいから、今度(こんだ)あ俺が、『塩出ろ。塩出ろ』ち回すないば、

塩が出てくる。

ああ、自由なもん。

そのかわり、もう要(い)らんち言う時、左さい回さんばばい」て、

こう教えとって。

そいぎぃ、こやどういう物に行き当たったかと思うて、

「饅頭と換う」

そいぎ換えた。

そうしたところが、こりゃあ、えらい物に行き当たったなあ、

と思うて行たて。そしたら、明日明後日(あすあさって)は正月けん、

「さあ、米出ろ。米出ろ」て、米がジョゥジョゥ出て。

「砂糖出ろ。砂糖出ろ」ち回すぎぃ、砂糖が出てくっ。

こりゃあ、本な物ねと思うておっとこれえ。

そぎゃん〔そのように〕しよんもんじゃい、言わばよかくりゃ金持ちになった。

少し兄貴者(あんじゃいもん)の金持ちよいか、

あっちゃこし〔反対に〕弟が金持ちになった。

そいぎぃ、兄貴者の方が嫉(ねと)うで、

あいがどつちからあがんとば持って来たやいきゃん。

ぎゃな〔あんな〕、ほんにあぎな宝ば持って来て、

ほんにおっ盗(と)ってくりゅうかて思うてなたあ。

そいぎぃ、その弟がちょっと留守しとっとこれぇ、兄貴者がおっ盗るとって。

そして、そいば船ん中さい持って行って、海岸近くじゃったて。

船ん中さい行たて、

「何出ろ。何出ろ」言いよったて。

出(ず)った出っ。今度(こんだ)あ、

「塩出ろ。塩出ろ」で、やいよったところが、

海ん中(なき)ゃあ、止めみちば知らっさん。

左さい回すとば知らっさんもんじゃいけん、

塩がいっぱいもう出て、もうこのため海の水は塩辛かていう話。

〔大成 一六七 塩吹臼(AT五六五)〕

(出典 吉野ヶ里の民話 P78)

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