神埼郡吉野ヶ里町在川 中島テルヨさん (明38生)
お父(とっ)さんとお母(か)さんと別れるって。
自分はたった一寸(約3.3㎝)ぐらいしかなか小さか体ばってんが、都に出て、
京都に行って、そして出世して立派(じっぱ)な侍になって、
出世しようという大きな志で出て来たぎぃ、
家から行く時、京都まで行くのに川とか、何とかあったじゃろう。
お椀(わん)に、お箸(はし)を家から貰って、
そして、幾らか、川におったかなんか知らんけれども、
川にお椀を浮かべ、自分の体は一寸ぐらいしかないもんじゃけん、
それに乗って箸の擢()かいで漕いで行って、京都に着いたと。
そして、京都に行ってから、困ったねえと思って、
行っても宿するわけにはいかんので、野宿するじゃろう。
頭にお椀被って。
そして、今度は箸は杖にして、そして、ずっと行きよったら、
いちばんいい所にどうせご奉仕するなら行こうて思うて、
何(なん)とか大臣という偉い大臣の家にまで辿(たど)り着いたて。
大臣の所に行たて、
「ごめんください」と。向こうに行ったら、姫さんのお気に入りになって。
このくらいの子供が来たけん、珍しがって、
「そんなら城(うち)に、体は小さいけれども気持ちの大きい元気な子じやけん、
城にちつと雇おうか」て、いうふうで雇われたそうな。
そしてから、まあ、年はどのくらいか知らんけど、
読み書きも知らんで、お姫さんから読み書きを習うて。
そして、筆て言えば自分の体が小さいけん、
筆をかたげんない〔かつげなければ〕字の書けん。
本を広げれば体は、すっぽり入るような体やったけども、
お姫さんのお気に入りで、まあ、読んだり書いたりして。
そして、ある日、お姫さんのお供ばして、清水寺にお詣りしたて。
そん時、悪か鬼の出て来て、お姫さんば握(さら)おうとした時、
一寸法師が刀の針を抜いてチクリチクリ刺したけんが。
(ある一方では口の中に入り込んで、お腹の中で針をチクリチクリ刺した、
と言うこともあれば、一方では目を刺したという。)
とにかく鬼を退治したらしい。
そして、鬼は降参して逃げて行く時に、
打ち出の小槌ちて言う物を落として行ったて。
そして、それを拾うて、
「これは自分の思うごとをかなえる宝」て。
「何が、あんたはよかか」て、言うたら、
「自分は、もう何もかんもより、大きゅうなることがいちばん希望」て。
そしたら、
「大きゅうなれ。大きゅうなれ」て、そのお姫さんが振ってくれたら、
ズンズンズン大きくなって、立派(じっぱ)なお侍さんになったて。
そして、お姫さんとご夫婦になって、めでたく城を継いだという話。
〔大成 一三六C 一寸法師〕
(出典 吉野ヶ里の民話 P56)