神埼郡吉野ヶ里町辛上 荒木キクさん(明37生)

 むかし。

あるところに塩売りさんで、

ずーっと、塩売りぎゃ(に)行きよんさったもようたんたあ。

嫁さんは持たんない、年は三十もなって塩売いぎゃ、ずーっと行きよんさったて。

そうしたぎぃ、ほんに嫁さんも持たんなん、ほんにあの人は、

ずーっと塩売って歩(そう)ちいてきつかけんが、ほんにこりゃあ、

私(あたい)が嫁さんになってくりゅうかあと思うて、

大蛇が思うたもようたんたあ。

そいもんじゃい、立派(じっぱ)しもうて(身支度して)なたあ、

晩ごとに日暮らして

朝早(はよ)うから日暮らして行きんさんもんじゃん。

こりゃあ、嫁さんになってくいてみゅうか思うて、

立派いわがしもうて、夕方帰って来んさっとば、

待っとったげなあたんたあ。その大蛇が女(おなご)になって。

そしたら、ショイショイで帰って来ないよったて。そいけん、

「私ば、いっちょ〔ひとつ〕道連れはしてくれんかんたあ」ち、頼ましたげなあ。

そいもんじゃい、

「そりゃあ、よか」ちて、言うて、一緒ずーっと、

後から付いて行きないよったて。そして、

「私ん所(ここ)、ここじゃいけん、そんなら別るっ」ち、言いなったところが、

「いんにゃあ〔違うよ〕私もここから夜(よ)さい行きやえんけんが

〔行くことができないから〕、こなた(お宅に)

いっちょ泊まらせてくれんかんたあ」ちて、こう言わしたて。

「そんなら泊んさい」て、泊めなったもよう。その塩売りさんが。

そしたところが、泊まって朝も塩売いぎゃ、早(はよ)う起きて行こうで

言んさっばってんが、

どがんしたっちゃ起きんさっさんて〔どんなにしても起きろうとしないと〕。

そいけんもう、寝せていっちょ〔しまって〕よかたいと思うて、

そのまた、朝、わが、早う塩売りぎゃ出て行きなったて。

そして、もう戻っとろうと思うて、帰って来なったところが、

まだ、ちょつこい(ひょっこい)おらすて。

そいもんじゃい、こがん俺(おい)やあ何日でんこがん泊めて大事(ううごと)、

これどがんすっきゃあて思うて、おいなったばってん、

戻らっさんもんじゃい〔戻りなされないから〕、

その晩もまた、泊めていっちょきなった〔おいていた〕もようたんたあ。

また、そしてその女、立派(じっぱ)いもあんもんじゃい(でもあるもんだから)、

女と男の盛いでなたあ、あんもじゃい、ちょつと、男、

男のひょつと出来心のしてなたあ、その人にしかけなったもようたんたあ。

そうしたところが、まあ、そいぎい、で、もう、

ちょつと、嫁御(よめげ)んごとして置(え)えてなたあ、

ずーっと嫁くさんのごとしておらしたもようたんたあ。

ところがなたあ、そがんしておっておったところがなたあ、

あぎゃんともう、嫁くさんになってもう塩ば

そぎゃんなって〔嫁をもらって〕からが、儲け出すなたあ。

もう、ちょっともう、塩売って、一貫目行李(ごうり)で

塩売いさんやったばってんが、よそわしか〔恐ろしいほど〕儲け出しなったて。

そして、今度は塩問屋してよかごと儲け出してなったて。

そいばってん、そぎゃん儲け出しなったばってん、

そぎゃんきちい〔つらい〕こと、こいが大蛇もんじゃい、

晩にどのようにあったっちゃ、人の寝静まってから

水につからじにゃでけんもようたんたあ。

そいもんじゃい、じっと寝静まってしもうてから、

水につかって行って来ないよったとば、隣の嫁くさんから見つけられなったて。

そいもんじゃい、

「ありゃあ、隣のほんによそわしかごと太か大蛇のおっ」ち、

言うごたっふうでなたあ、

よそわしか隣の嫁くさんの評判しんさったて。

そいもんじゃい、わがおられんごとなってなたあ。そしてもう、

「どうでんこうでん〔是非〕、暇ばくれんかんたあ」て、

聟どんに言わしたちそいばってん、

「暇ば。こがん儲けじゃあたもんで、行かんちゃよかやっかあ」ちて、

言いなっばってん、

「いんにやあ〔ちがう〕。もうどうでんこうでん、.私は暇ばもらわんばでけん」

ちて、いうて言わすもんじやい、

「そんない、どがんしゅうもなか〔どうしようもない〕、別れじにゃ。

こがん儲けじゃあたばってんがあ」ち言うて、別るっごと決ったち。

そうしたっが、嫁くさんの出て行かす時、

「上から二番目の箪笥(たんす)は、

どの用のあったっちゃ開けてくんさんなあ」て、言うて、嫁御がそう言うて。

そしたけんが、

「そんない」ちて、言(ゆ)うて、

立派(じっっぱい)い別れて帰んさったところがなたあ、

「もう、開けてくるんな」て、言うたばってん、

箪笥(たんす)は開くうごとして〔開けたくて〕たまらんて。

そいもんじゃ、開けてみんさしたて。小(こう)まか箱の入っとっちゃん。

そいけんが、

「『開けてくるんな』て。なんかい〔なんだ〕、こぎゃんもんば」ちて、

言うて、開けてみなっぎい、

ほんにもう、目は当てられんごと光いよっとの入っとっち。

こりゃあ、何(なん)じゃろうかて思うて、見てみらしたら、

もう難儀せんごと大蛇がなたあ、目ん玉ば置(え)えて行たとったて。

そして、置えて行たとったとば、開けえにゃあよかったばってん、

開けなったもんじゃん、

そいからまた、ドンドンドンドンで貧乏になってなたあ。

また、しょて〔以前〕の塩売りさんにないなったもようたんたあ。

そしたもんじゃい、塩売りさんにないなったもんじゃい、こりゃあもう、

でけんばいち〔だめだと〕。

いっちょ〔ひとつ〕、何処何処(どこどこ)の堤におっち〔おるよ〕、

言うといなったけん、行たて相談ばしてみゅうちてまた行かしてなたあ、

「俺(おり)やあ、また、こがん落ちぶれてしもうた。

お前、まいっちょ〔もうひとつ〕帰って来てくいろう」ちて、相談に行きなったて。

そうしたところが、その大蛇が言うことにゃなたあ、

「今度〔こんだ」あ、あなたに目ん玉ばやるぎんと、俺やあ、もういっちょでん

目の見(め)えかからんごとなっ」て。

「そいけんが、暮れむつの鐘と明けむつの鐘と

撞(つ)いてくんさっぎとにゃなたあ、目ん玉ばいっちょやろう」

ち言うたけんなたあ、その暮れむつの鐘と明けむつの鐘と

合図すっごと撞きらしたて。

そのわいのそいが、今でん三井寺の寺にそのお鐘があっちいう話たんたあ。

作らしたそいが上方(かみがた)の三井寺の鐘の下っとっち。

〔大成 一一〇 蛇女房〕類話

(出典 吉野ヶ里の民話 P47)

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