神埼郡吉野ヶ里町上三津 城尾善三さん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

あるところに欲張りで金持ちの兄さんと、貧乏な弟さんが住んでいた。

ある年の師走の二十九日に、貧乏な弟さんは餅を搗こうと思って、

臼を借りに出かけようとしていた。

ちょうどそこへ、金持ちの兄さんが来て、

「おまえ、師走の二十九日は一年に一ぺんずつあっちゅうことを知らんか。

もう、借りるどころじゃなか」と、ぐちをこぼした。

貧乏な弟さんは、ある人から聞いてまんじゅうを作った。

それを腰にさげて旅に出た。

貧乏な弟さんは、せめて子供なりとも餅を食べさせてやりたいものだ、

と思いながら行っていた。

すると、その途中で、小人たちが洞穴の中に、

長い木を一本ずつ運んでいるのに出会った。

貧乏な弟さんは、そのようすをしばらく立ったままで見ていた。

そして、小人たちに向かって、

「おまえたちは、たった一本ずつしか持っていききらんか」と言った。

すると、ある小人の一人が、

「たった一本ずつしか持っていききらん」と、貧乏な弟さんに言った。

ある小人の一人が、

「あんた、腰にさげとっとは何かい」と、貧乏な弟さんに聞いた。

貧乏な弟さんは、

「こりゃあ、まんじゅう」と、小人たちに言った。

また、小人の一人が、

「おれたちは、よか宝物を持っとっけんが、

あなたのまんじゅうと換ゆうか。よか宝物よ」と、貧乏な弟さんに言った。

貧乏な弟さんは、

「よか宝物?どんな宝物を持っとっかん」と、小人たちに聞いた。

すると、ある小人の一人が、

「こりゃあ、ほんによか宝物で石臼を持っとっ」と、貧乏な弟さんに言った。

貧乏な弟さんは、宝物の石臼が欲しくなった。それで、

「はぁ。そいじゃ換えてもよか」と、小人たちに言った。

小人の一人は、

「おまえさん、この石臼は言うことを聞く。

右さい回して、『米でろ』と言うと、米が出てくる。

こんだあ、『砂糖でろ、砂糖でろ』と言うて、こう回すぎ、砂糖が出てくっ」

と説明した。

貧乏な弟さんは不思議な石臼に驚いた。

また小人の一人は、驚いている貧乏な弟さんに、

「それからこんどは、おまえさんが塩が欲しいなら、

『塩でろ、塩でろ』と回すと、塩が出てくっ。自由なもん。

いらんときは、左さい回さんばらんばい」と説明した。

貧之な弟さんは、これはたいした宝物だと思いながら、

小人たちの石臼とまんじゅうを換えた。

そして、石臼を持って家に帰った。

貧乏な弟さんは、石臼を試しに、

「さあ、米でろ、米でろ」と、言って回した。

すると、米が出てきた。こんどは、

「さあ、砂糖でろ、砂糖でろ」と、言って回した。

すると、砂糖が出てきた。

そういうようなことで、貧乏な弟さんは、みるみるうちに金持ちになった。

そのことを欲張りで金持ちの兄さんが知った。

兄さんは、金持ちになった弟さんを憎んだ。

そして、宝物の石臼を盗んでやろうと思っていた。

ある日、弟さんは家を留守にした。

欲張りで金持ちの兄さんは、このときとばかりに宝物の石臼を盗んだ。

そして、それを舟に積んだ。

欲張りで金持ちの兄さんは、舟で海に出て、

「さあ、何でろ、何でろ」と言って、いろいろな物を出した。

こんどは、「塩でろ、塩でろ」と言った。

塩は次から次に出てくる。

しかし、欲張りで金持ちの兄さんは、

塩が次々に出てきたのはよかったけれども、その止め方を知らなかった。

石臼を左に回すと止まるということを知らなかった。

そのために海の水は塩からくなったとさ。

(出典 佐賀の民話第一集 P89)

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