神埼郡吉野ヶ里町小川内 武広邦敏さん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

あるところに、金持ちの七兵衛と、貧乏な八兵衛とが住んでおったと。

ある日、八兵衛は火吹き竹を作り、婆さんに、

「七兵衛方さい行かんならんけん、

おとんな死んだ真似をしといやい(していなさい)。

おれが吹いたときゃ、さっと起きやい」と言った。

八兵衛は七兵衛の家に行った。そして、

「七兵衛、おれは宝物のよかとば持っとっけんにゃあ」

と、八兵衛が言うと、

「どがんとかぁ」と、七兵衛が開いた。八兵衛は、しめたと思いながら、

「死んだ者が生きっとたい。おれのとは」と、七兵衛に言った。

そして、八兵衛は七兵衛に、

「来てみれ婆さんの死なしたばい。ばってん、おれがこの火吹き竹で、

フゥーて、吹くと、すぐ起きらしたたい」と言ったすると、

七兵衛は欲張りだったから、火吹き竹が欲しくて、欲しくてたまらなかった。

七兵衛は早く八兵衛の家へ行きたくてたまらなかった。

七兵衛が八兵衛の家に行くと、婆さんは死んだ真似をしていた。

八兵衛が火吹き竹で婆さんを吹くと、すぐに起き出した。

そして、婆さんは、

「おれは極楽に行たとったいどん(行っていたけれども)、

おまえどんが火吹き竹で吹いたけん、来たぜぇ」と言った。すると七兵衛は、

「おれに売いやい。火吹き竹ば」と、八兵衛に言うと、

「こりゃあ、安うは売られん」と言って、高く売りつけた。

七兵衛は火吹き竹をさっそく確めたく思って、自分の婆さんを殺した。

死んだ婆さんを火吹き竹で吹いてみたが、すぐに起きあがらなかった。

いくら七兵衛が吹いても、とうとう婆さんは起きあがらなかった。

七兵衛は八兵衛からだまされたと、やっと気がついた。

そんなことがあってから、またある日、八兵衛は婆さんに、

「若か竹ば切って、煮えた時分に、おれが『おおーい』て言うぎ、

そんときは『おおーい』て言うて、棚の上にあげやいのう」

と、言いつけておいた。

八兵衛はまた七兵衛のところにやって来て、

「七兵衛どん、おれは宝鍋ば持っとったん」と言うと、

「宝鍋ていうぎ、おれをだますとじゃろう」と言った。

すると八兵衛は、

「いんにゃあ、宝鍋。棚の上にあげとげば、何でん煮ゆっとたん」

と言った。七兵衛は、

「そがん鍋のあるもんか」と言った。

「そんない、来て見んかい」と、八兵衛は言って、

七兵衛を自分の家へ連れて行った。

そして、八兵衛は棚の上の鍋を指さしながら、

「あすけぇあげとっぎ、いつでん煮えとっ。さあ、七兵衛どん食いやい」

と、すすめた。

七兵衛が食ってみると、これはたいした鍋だと思って、八兵衛に、

「この鍋ば売ってくいやい」と言った。兵衛は、また鍋を高く七兵衛に売りつけた。

七兵衛は鍋を家に持って帰った。

そして、棚の上に何もかも入れてあげた。

しかし、全く煮えなかった。

七兵衛は、とうとう腹を立てて、八兵衛の家に行き、

「おまえ、またあぎゃんして鍋ば高く売りつけて」と、やかましく言った。

すると八兵衛は、

「そんなはずはなかろう。おれのときは、いつも煮えよったけん、

焚物はいらんやった。ひょっとすると、おまえは鍋ば洗いどませんじゃったかん」

と、七兵衛に言った。

「洗うたくさん。あがん汚れとったから」と、七兵衛は言った。

すると、八兵衛は残念そうにみせかけて、

「あいたぁ、そいけん、ありゃ洗うぎ煮えんとたん」と言った。

また、七兵衛はどうすることもできなかったと。

それからまた、七兵衛は太いりっぱな馬を飼っていた。

八兵衛はよりよりするような(今にも倒れそうな)やせ馬を飼っていた。

八兵衛はやせ馬に古銭を尻の穴に押し込んでいた。

ある日、七兵衛が馬買いに行っていた。八兵衛のやせ馬を見て、

「やせた馬の、よりより倒れるごたっとの、また何をさせたか」

と、八兵衛に聞いた。

「おれの馬はのう、やせとっばってん、銭糞たるっばん」と七兵衛に言った。

すると、七兵衛は、

「銭糞たるっ馬はおんもんかん」と言うと、八兵衛は、

「おれの馬は、いつも銭糞ばたるっとたん」と言った。

そして、馬の尻あたりを叩いたら、馬は銭糞をたれた。

七兵衛は、その馬が欲しくなり、自分の家へ戻って、

太いりっぱな馬を八兵衛のところに連れてきて、その馬と替えてもらった。

七兵衛は、いつ銭糞たれるだろうかと、楽しみにしていた。

しかし、とうとう銭糞はたれなかった。

七兵衛はまた腹を立て、八兵衛を俵に押し入れ、道に捨てた。

目の悪い鯖売りが、その俵にぶっつかった。すると、

「誰だ!ひっかかって」と、八兵衛はどなった。

「ありゃ、おまえじゃったのまい。八兵衛どんじゃったのまい」

と、目の悪い鯖売りは言った。

「おれは目の悪かけん、目のようじょうしとっと、これにはいって。

これはいっとると、目のゆうなっ(よくなる)」と、八兵衛は言った。

「それ、はいっとりゃ、目のゆうなんのまい」と、目の悪い鯖売りは聞いた。

すると八兵衛は、

「この俵の中が一番よい。目の悪いときゃ、これはいっとれば、一時間でゆうなっ」

と、言うものだから、

「そけぇ、いれてくれんのまい」と、目の悪い鯖売りは頼んだ。

八兵衛はこれで俵の中から出られると思って、

「おう!ほどけ」と、目の悪い鯖売りに命じた。そして八兵衛は、

「おまえ、これはいっとぎ、すぐよくなっぞう」

と言って、よろこんで立ち去ったとさ。

(出典 佐賀の民話第一集 P73)

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