神埼郡東脊振村小川内 武広 勇さん(年齢不詳)

 あるところに、そばの好きな平太という若者が住んでいた。

そばを丼で十五杯ぐらい食べないと承知しなかったので、そば食い平太といわれていた。

ある日、そば食いのかけをしようということになって、

「平太!おまえは何杯くうか」

と言われて、ふだんは十五杯ぐらいだったけれども、

「二十五杯たべよう」

と、そば食い平太はうそをついた。

そば食い平太とかけた人は、いくらなんでも二十五杯は無理だろうと思っていた。

平太は何とかしてそばの食える方法はないかと気をもんでいた。

あしたがそば食いのかけの日という時に、平太は焚物を取ってこようと思って、山へ出かけた。

山道を行っていると、大きな蛇がネズミを呑もうとしていた。

大きな蛇は平太には気づかず、一匹のネズミをぺろりと、呑んでしまった。

しばらく平太が見ていると、また二匹目をぺろりと、呑んでしまった。

次々に大きな蛇はネズミを呑んでしまった。

大きな蛇の腹はふくれあがった。

平太は、やれやれ自分もあの大きな蛇には勝つことはできない。

小さな腹でネズミを十匹も呑むとはと思って、平太はその腹をじっと見ていた。

大きな蛇はゴソゴソと草むらの方へいった。

そして、草をペロペロペロペロと食いはじめた。

平太はそのようすをじっと見つめていた。

すると、草を食べたかと思うと同時に大きな蛇の腹は小さくなっていった。

平太はこれはしめた、あの草をあしたのかけに持って行こう。

そばを二十五杯、腹いっぱい食べてからあの草を食べてみよう。

腹がぺっそりと小さくなるだろうと思い、平太はその草を取って家に持ち帰った。

そば食いのかけの場所へ平太が行ったときは、すでに二十五杯のそばが並べであった。

平太はそのそばを一所懸命になって食べた。

二十五杯目を食べてしまったときは、喉までそばがきているぐらいになっていた。

平太は家に戻ってから、きのう取ってきた草を食べ、渡をへらすために目を閉じて坐っていた。

そのよく朝、平太は起きてこない。

そば食いをかけた人が、平太は具合いを悪くしたかと思いながらたずねて来た。

その人は部屋の中を探し回ったが、平太の姿はなく、そばだけが畳の上に山盛りになっているのに気づいた。

そば食いのかけをした人は驚いてしまった。平太の体は全部溶けてしまいそばだけが残っていた。

そいから先は、ばっきゃあ。

(出典 佐賀の民話第一集 P61)

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