伊万里市立花町渚 松尾テイさん(大5生)

鼠(ねずみ)と狐と、その、狐が丁度(ちょうど)鼠が体が小さかもんじゃっけん。えんなやあとんごと、我が大将のごとね、思うて、

「その、俺(おれ)にゃのさんやろう」て。「足の幅でも何(ない)でも広かけん、お前(まい)、とても俺にゃのさんばい」て、鼠を馬鹿にするわけですね。そいぎ鼠も、なにをと思うて、

「太さばっかいじゃあんもんか」と、言うわけで。

「そいぎぃ、競走しゅうだい」て。「何処(どこ)そこまで」て言うて、競走すっ。そいぎその時、

「明日、競争すうぜぇ」ち。

そいぎ鼠は、もう一人の仲間と話し合うてね、こがんこがんして、狐と競走すっごとなったけん、当い前かけよっちゃとても、あいから言わるっごとのしもせんけん、お前(まい)、向こう側(がや)おれて。俺ゃこっちおっけん、ちゅうごとして、二匹であいすっわけです。

そうして、狐は一生懸命、よーいドンで走(かけ)て行く。鼠も一時ゃへっとどん、遅うにゃ、もうピョッ。そいぎぃ、来た時ゃこっちの鼠が、こけぇ番しとっわけですよね。そいで、

「あら、狐さん、今やあ。俺ゃ、まっと早うから来とっとけぇ」ち。そいぎぃ、

「どうもおかしか。そいぎぃ、まあ一度(いっぺん)走(かけ)てみゅうかあ」ち、走(かけ)てむっ。もう、ちゃあーんと、こけぇ来とっわけですよね。そして、こっちも、

「あら、狐さん。お前(まい)、大抵お前、早かごと言うたいどん、今やあ。俺ゃもう、早うからこけぇおっ。来たとばい」て。

とうとうその、狐が鼠の知恵に負けたところでね。

やっぱい、人間な知恵なしにゃでけんとばい。腕力だけじゃでだめばい、ち言(ゆ)うて、言いよったですもんね。

(出典 肥前伊万里の昔話と伝説 P49)

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