伊万里市立花町渚 松尾テイさん（大5生）
むかーしむかしね。
山仕事ば、ほんに気張い坊のおらしたて。
そして今日も、山で仕事場して、
もう一段落ちいたけん帰ろうかにゃあて、しよらしたぎぃ、
「今日のお産な、ほんにやさしゅうして良かったいどん、
いちばん口の鳴き声で、十三の春にその、水の物から命ば取らるっ」
て、鳴いたて。
「ほんに可愛相に」て。
「良かー男ン子の生まれたいどん、ほんに可愛相にのうー」
ていう声の、何処からじゃい聞こゆっ。
あらー、不思議なこともあるにゃあ。
何処から誰が言いいよらすとやろうかにゃあと思うて、
こうーして声のする方を見らすばってん、誰も人影は見えんどんが、
その声の聞こえたて。
そいぎぃ、不思議なこともあるにゃあ。
家(うち)の嬶(かか)も、今日明日(あした)、お産ばすっち、
言いよったにゃあと思うて、その、帰ってみらしたぎぃ、
やっぱい家(うち)の嬶(かか)が、男ン子の赤子ば産んどったて。
そいぎぃ、さっきの山で聞いた声は、こりゃ、
河童の声じゃなかろうかにゃあと思うて、気になって気になって、
その嬶どんにも話さじぃ、我が胸にいっちょ収めて、
もう子供ば可愛ゆうて、名も太う良うなっごとして、太一て名も付けて、
その、可愛がりよらしたて。
そうしてもう、何処ぇ行こうばってん、
「短(みじか)か命じゃっけん、一緒におってやらんば」ち言うごと、
何処ぇ行くばってん、離さんごとして、可愛いがいよらしたとて。
そうしたところが、十三の春にいよいよなったぎぃ、
ひょかっと、そい、思ぇ出ぇあて、
「十三の春になっぎぃ、水の物から取らるっ」て。
やっぱい、もう姿見えたぎぃ、山の神さんじゃったとじゃろうかにゃあと。
山の神さんのお告げじゃったとじゃろうかにゃあ、と思うてその、
十三になったら、なお更もう、一時(いっとき)でん我が側から離さんごとして、
その親父さんも太一ちゃんば連れて歩きよらす。
そうしたところが、やっぱい春先、暖か日和になってから、
「お父ったん、今日は魚(いお)釣いぎゃ行きたかあ」て、言うたて。
そいぎもう、親父さんもドキーッとして、
ああ、いよいよ今日限りの命じゃあろうかにゃあて、思うてその、
「そうやあ」て、言うて弁当も、握りも、いつもよきゃあ、おいしそう作ってやって。
そして、丁度よか時、ノンキーのあったけんが、
そのノンキーば二粒そえて、持たせてやらしたて。
「余(あんま)い危なか所(とけ)ぇ行きやんなのう」て、言うて、
その、持たせてやらしたて。
そして、ところが太一ちゃんな良か塩梅の所ぇ座って、魚ば釣いよらしたぎぃ、
いつんはじゃーいろ、我がと同年ぐりゃあの男ン子の来て、
魚ば釣いよっちゅうもん。
ありゃ、と思うたごとして、釣いよらしたぎぃ、丁度昼上い時になったけん、
「俺(おら)、弁当ば持って来とっばい。お前(まい)、持っとっやあ」て。
「いんにゃあ」て言うて。そいぎぃ、
「お前(まい)にも、やろうかあ」て、言うて包みば、
お父ったんの作ってくいらした弁当包みば見らしたぎぃ、
ノンキーの二つ入っとったて。
そいぎぃ、
「あら、ノンキーば入れてくいちゃっぱん。
お前(まい)にも、いっちょやろうかあ」て
言うてその、いっちょずつ口に入れらしたところが、
昔の水飴で作っちゃんもんじゃっけん、なかなかもう、
アンギーアンギー噛みよったぎその、暇の入ったて。
なかなかその、水飴でつくっちゃっけん、
サアーッとは溶けんもんじゃっけん、
あの、ノンキー食うとに暇の入って。
そしたところが、その、ようようノンキーば食うてしもうてから、
見知らん男が言うことにゃ、
「今日、俺(おり)ゃ、ここの渕の河童(かわっそう)」て・
「河童の親方から、『お前(まい)の命ば取ってこい』て、
言われて来たいどん、お前(まい)から
その、ノンキーば貰うたったい。
そいば食べよったぎぃ、思いの外に時間のひっかかって、
丁度、言われた時間に、松葉の一本分、お天道さんの通い過ぎらした」て。
「そいけんもう、その、お前(まい)の命ゃ取るこたあでけんごとなった」て、
言うと早う、スレーッて、のうなったて。
そいからが、その太一は、ますます達者で病気もせじぃ、
ほんに気張い坊で、親父さんに負けんごと気張って、
食いやあも良うならしたて。
年取っまで、達者で長生きばさしたて。
はい、めでたしめでたし、チャンチャン。
（肥前伊万里の昔話と伝説 P130）
