伊万里市立花町渚 松尾テイさん(大5生)

 梟(ふくろう)の先祖は染屋さんやったて。

そいぎぃ、あの、いろいろの鳥が、梟さんの所来て、

「染屋さん、私は藍色に染めてくんさい。私には玄色に染めてくんさい」て、

面々が来って。

そいぎぃ、

「そうのう」て言うて、希望どおり、

注文どおりにその、染めてやらしたて。

川蝉には、あぎゃん藍色に染めて。

赤色に染めたい、嘴(くちばし)ゃ黄色に染めたいして、あい、さすて。

そいから、目白はもう、鶯、茶色緑に染めて、

眼ン玉だけは、眼の縁ゃ白う、いうごとして、

希望どおりに染めてやらしたて。

そいぎぃ、鶯は、

「俺(おり)ゃもう、余(あんま)い太うもなし、力も強うなかけん、

そがん、目立たん色で良かあ」て。

言うもんじゃっけん、木の葉と余いかわらんごとして、

そして木の下ばあーっかい、その、自分の身が元の便利なような色に染めてやらしたて。

そいぎし、そいば聞いて、その、烏が、

「梟さん。染屋さん、私にゃ、どうぞ、誰(だーい)も真似えんごたっ色に染めてくんさい」

て、頼うだて。

そいぎぃ、梟の染屋さんが、さて、誰(だーい)も真似のえん

何処(どけ)ぇもなかんごたっ色に染むっちゅうぎぃ、

どういうふうに染むっとがよかろうにゃあと

思うて、やっさに考えよらしたて。

そして、考えてから、うん、よし、この色に染めてやっぎにゃあ、

誰(だーい)の真似のでけんて、思うて、あの、

烏は黒か染むっとに、ゾブーッと付けらしたて。

そして、一遍じゃなしぃに、二編じゃなしぃ、その、濃(こ)ゆう染めてやらしたて。

そして、

「烏さん、こいないばもう、あんたの注文に一いちばんぴったりの色に染めたけん、

もう誰(だーい)も、もう、その、真似もないもしわぇんばい」て。

「良か色に染まった」て、

梟の染屋さんが言わすもんじゃっけん、烏が喜うで、

そがん立派か色に染まったかろうかにゃあと思うて、

鏡ば見らいたぎぃ、もう、足の爪ン先から頭の先、嘴(くちばし)の先まで、

目ン玉どま何処(どけ)ぇあろうわからんごと、何(ない)もかいも真黒。

そいぎ烏が腹きゃあて、

「その、こがん色に染めて。俺(おり)ゃ、こがん色には言うとらんやった」て。

「いんにゃ。そいどん、お前(まい)様

『その、誰(だーい)も真似ぇんごと、別にゃなかごたっ色に染めてくいろ』て言うたけん、

お前(まい)様の注文どーり染めたけん、この色より別にゃもう、染められんばい」て、

その梟の染屋が言うたちゅう。

そいでも烏にすっぎぃ、歯痒うして、

「みぃよれ。俺(おい)ば、こがん色に染め、何時かは敵(かたき)ば取ってくるっ」

ち言うて、行たて。

そいで川ぁ行たて、洗おうでしても何(ない)してもとれんやったちゅうもん。

そいぎますます烏が、腹きゃあて、あの、

「何時かは敵(かたき)ば取ってくるっけんにゃあ」ち言うて、

その、梟の染屋さん方ン戸口で、ギャアギャア言うたとて。

そいからが、もう、梟は烏から叱(くる)われたい、威されたいして、

恐しゃあ、昼はいっちょん出て来んとて。

はい、おしまい、チャンチャン

(肥前伊万里の昔話と伝説 P72)

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