伊万里市立花町渚 松尾テイさん(大5生)

 むかしむかしなたあ。

弘法大師さんがほら、仮名ば案じ出しござったでしょ。

そいぎね、あの、「笑う」という字が、

どうでんもその、案じ付きござらんちゅうもん。

そいぎぃ、昔々はね、

囲炉裏に填(は)めちゃあっ五徳が四本あったて、脚のね。

そして、犬は三本脚じゃったて。

そいぎんと、弘法大師さんが、

「笑(わらう)」という字ば、もう、考えございどん、

その、案じ付きござらんてっちゃん。

そいぎぃ、大抵悩みよいござったぎぃ、

その犬が、竹のしょうけばかぶってね。

そして、その、

「大師さん、こりゃ、どがんやろうか」ちて、出て来たそうです。

そいで、三本脚でコロッてし、その、よりよりして、出て来っとがその、

恰好が如何にも面白かったてちゃんもん。

そいぎぃ、とうとうおかっしゃその、弘法大師さんが笑いござったて。

そして、

「ああ、そうだ」て、言うてその。

竹かんむりに犬という字ば書ゃあて、「笑(わらう)」という字。

そいぎね、弘法大師さんな、犬からねぇ、こがん「笑」じば貰うたけんが、

犬になにかそのお礼ばしてやろうと思うて、よう見いよったぎぃ、

その五徳が脚が四本あって。

そいぎぃ、こりゃね、五徳に、

(大体、前は四徳て言いいよった。その四本脚。)そいぎにゃあね、

「これ一組脚ゃあ、面白なか」ち。

「そいけん、この脚ば一本(いっちょ)取って犬に付けてやろう」ち言うて、

後ろに付けてくいござったて。

そいぎ犬は、今までコロンコロンしよったとの、

ほんに四本脚なって、歩き良うなったもんやっけん、

「こりゃもう、大師に貰うた脚じゃっけん、小便どんいっかけてはでけん」

ち言うて、片脚あげて小便すっごとなったとえじゃんもんなた。

そいぎぃ、

「一本の一組は、その、一組四本、そいば一本やっけんが、

三本になっつたやっけん、名前で増やあてやろう」

ち言うて、五徳ちゅうよ。

五徳はね、脚は三本やったいどん、

名前で五徳ににゃあてくいござったて。

(肥前伊万里の昔話と伝説 P69)

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