伊万里市立花町渚 松尾テイさん（大5生）
伊万里読み聞かせボランティア 田中亮子さん
ある百姓の貧しい男が、畑に行ったら、
鶴が傷(けが)をして飛べないでいました。
羽の根元に矢がささっていて、飛べないでいたので、
「ああ、お前。こいば、あの、矢ば射られとったのう」と言って、
外してやり、治療してあげてから、
「ほら、お前。飛び立って行きんさい」と言って空に離してやりました。
数日後に、きれいな可愛らしい女の人が来て、
「ほんのこて、先日助けてもろうた鶴で、
何ないとんご恩返しにと思うて来た」と言いました・
甲斐甲斐しく嫁さんは世話をしてくれますが、
小作の百姓なので、なかなか裕福にはなりません。
「今年も年越しゃどがんしゅうか」と、言ったら、嫁さんが、
「そいぎぃ、ちょっと待ってくんさい。
こいから一週間、私の部屋には、さあ、ここは覗かじおってくんさい」と言って、
部屋に籠って、カチャンカチャンカチャンと機織りを始めました。
でも、覗かないで下さいと嫁さんが言うので、
覗かないでいたところ、きれいな反物を持って来て、
「こいば、夜通し日通し織ったとじゃっけん、町に行くぎぃ、こいない百両には売るっけん、
そいしこには売って来んさい」と言いました。
これが百両で売れるのだろうか、と思いながら町に売りに行ったところ、
嫁さんが言った通り、百両で売れました。そして帰って来て、
「また糸ばこう垂れて、まあ一枚(いっちょ)織ってくれんかん」と言いました。
「まあ一枚(いっちょ)ですかあ」と言って、聟さんの言うことだからと思い、
「今度も絶対、覗くぎでけんばんたあ」と、言いましたが、
聟さんが、障子の隠れから覗いたら、嫁さんは鶴の姿で、
自分の毛をむしって、織っていたのでした。
こんなことをして織っていたのかと聟さんは思いました。
鶴の嫁さんは覗かれたことを知って、
「私はこいから先ゃおられんけん」と言って、
その織り上げた反物を置いて飛んで行ってしまいました。
それからまた聟さんは、元の貧しい男になってしまいました。
鶴の恩返しだったんですよ。
助けられた鶴はご恩返しに来たのに、聟さんが約束を守らなかったのでこんなことになってしまいました。
だから、ちゃあーんと、約束したことは、守らなくてはいけないんですよ。
これでおしまい、チャンチャン。
（肥前伊万里の昔話と伝説 P97）
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